チャイナ娘♂の災難N

嫌な予感に全身から嫌な汗がぶわっと噴き出した。

いや、まさかな、そんなはずないよな。だって、ほら、な?

そう必死に自分を落ち着かせながら、引っ掛かっていた自分の下腹部を振り返った俺は、そのまま凍り付いた。
そして、


「っあ…ああああッ!!」


大きく破れたそこに、悲鳴が出てしまう。
いや、大丈夫だ。落ち着け。裾から腰の辺りにまで走る亀裂は一見したら元からのこう、スリップに見えないことも……見えねえ!無理だ!つーかめっちゃ破れてんじゃねえか!


「あーあ、やっちまったなぁ?どうすんだよ、これ」

「はっ?なっ、だって、お前が…」

「は?人のせいにすんなよ。てめえが我慢できねえからだろ?」



店の貸し衣装破ったくせに全く悪びれた様子がないどころか全てを俺の責任にしようとするなんて。
しかし、お陰で脚立とさよならできる。


「お前、さっきから人が大人しくしてりゃあ好き勝手言いやがって…」


最悪の形ではあるが、これでもうドレスのことを気にしなくてもいい。
好き勝手動けるということだ。
言い返す俺に、片眉を吊り上げた四川は「あ?」と俺を睨んでくる。


「気付いてねえだろうけど、これが破れたってことは俺は好きに動けるって事だからな!そんなちょっと怖い顔したって全然怖くねーから!」

「だったらどうすんだよ」

「こうするんだよ…ッ!」


そうだ、日ごろの恨みを今こそ晴らすべきなのだ。
一発殴ってやろうと拳をつくり、腕を大きく動かしたときだ。

振り下ろそうとした腕は、動かない。


「……?」


動かそうとすればするほど、金属音と背後から引っ張られるような違和感を覚えた俺は自分の右手に目を向け、そこで、俺は手錠の存在を思い出した。

あ、そうだ。これがある限り、俺、動けねえんだった。



「ふっ、ククッ、ブハハハハッ!」

「わ、笑うなよ!なに笑ってんだよ!」

「……はぁー、ほんっと、あんたって馬鹿だよな!」


目に涙を浮かべるくらい爆笑する四川に、顔面がカッと熱くなった。
こっちが泣きたいくらいだ。
握り締めた拳はやり場をなくし、なんとかこの鎖を切ることができないだろうか。そう手を動かすがガチャガチャと喧しい音を立てるばかりで。


「クソ…ッ」

「おい、それまで壊すつもりかよ。やめとけ。お前には無理だよ」

「そんなの…」

「それより、もっと賢くなれよ」


近づいて来た四川の手が、チャイナドレスの裂け目に触れる。
その無骨な指が繊維が剥き出しになったそれに触れたとき、大きく裾をたくし上げられた。
強引なその動作に、下腹部からブチブチと嫌な音が聞こえてくる。


「あっ、おい、やめろって!」

「何言ってんだよ、今更。…ここまで破けりゃ、あとはどうなっても一緒だろ」


「なぁ?」と、耳朶に熱く濡れた舌が這わされる。
吹き掛かる吐息。
四川の言葉を理解した瞬間、全身から血の気が引いた。



mokuji
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