甘えたい笹山と頼られたい原田

「笹山君、これ、お願いしていいかな」

「笹山ー!こっちも頼む!」

「透、悪いけどちょっと手貸せよ」


昔から人に頼まれると断れなかった。
そのせいか余計人に頼まれることが多くなり、まあ、頼りにされるのは喜ぶことなのだろう。と前向きに受け取るようにしてから早数年。


「笹山、悪いけどこれ運んでてくれないか」


「わかりました」


最近は脊髄反射で返事をしてしまうようになってしまった。
積み上げられた箱。
まあ、これくらいなら何とかなるかな。
なんて思いながら数箱まとめて抱えたとき。
横から伸びてきた手に上二箱を取り上げられた。
「あ」と顔をあげたら、そこには原田さんがいた。


「け、結構重いな…これ」


言いながらよろよろと後退する原田さん。
まさか手伝ってくれるなんて思いもしなくて、逆に戸惑ってしまう。


「原田さん、そんな…悪いです。俺一人で持てるんで」

「いいって、これくらい大丈夫だから」


「でも」と口籠る俺に、踏ん張った原田さんは呻いた。


「…それに、一人より二人のがいいだろ」


そうぶっきらぼうに呟く原田さんは言ってから恥ずかしくなったらしい。
「ほ、ほら、早く済むし!」と慌てて付け足す原田さんの後ろ姿に、『あ、抱き締めたい』なんてそんなことを考えた瞬間、両腕から力が抜け落ちる。
瞬間、つま先に段ボールが落下。


「っ、つぅ…!」

「うおっ!大丈夫か!」

「す、すみません…少し、驚いて…」


まさか邪なこと考えてたなんて知られたらきっとこの人は軽蔑するだろう。
痛みを堪え、慌てて笑顔を作ってみるがやっぱり痛いものは痛いわけで。


「わ、悪い……余計なことしたか?」

「違うんです、そういう風に言ってもらえたの、初めてで…」


「だから、嬉しくて」と小さく付け足せば、原田さんは驚いたように目を丸くして、そして笑った。


「これくらいのことなら俺も出来るから、なんでも言ってくれていいんだからな」

「ありがとうございます。…でも、やっぱり悪いです。原田さんの手を煩わせてしまうのは」

「いいんだよ、どうせやることねーし」

「原田さん…」

「あ、いや、別にサボってるとかじゃなくてすぐ終わるからって意味だからな?だからその…」


ゴニョゴニョとばつが悪そうにする原田さんに、つられて笑う。
それでも、こんな自分のことを気遣ってくれる気持ちは伝わってきて、胸の奥が暖かくなってきた。


「じゃあ、一緒に手伝ってもらっていいですか?」


そう、改めて原田さんに向き直れば、きょとんとこちらを見上げていた原田さんは、俺の言葉を理解したようだ。
「任せろ!」と目を輝かせる原田さんは、そのまま段ボールを抱えて走り出した。

人から頼られるのが好きなのだろう。
しっぽぶんぶん振ってる原田さんを見ていると、なんとなく近所のおばさんが連れてた柴犬を思い出した。
案の定商品棚に引っ掛かって転ぶ原田さんを眺めながら俺は微笑んだ。


mokuji
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