チャイナ娘♂の災難J

「ちょ、おい…っふ、んん…ッ!」


慌ててやつから逃げようと身を捩らせるが、顎を掴まれ逃げられない。
奥深くまで入り込んでくる四川の舌に、全身が緊張する。

鍵ねーならこんなのただのキスじゃねーか。
人の努力と純情を全力で踏み躙ってくるやつに怒りを覚えたが、生々しい舌に舌の根っこをなぞられれば頭の中は真っ白になって。


「っ、ふ、ぅ……」


やばい、やばい、やばいとわかってるのに、咥内を擽られると体から力が抜けそうになって更にやばい。
周りの音や声が遠くなって、頭の中が目の前の四川でいっぱいになったとき、不意に、商品棚声に人の声が聞こえてきた。


「おっかしーなー、笹山君が四川君こっちの方にいるって言ってたのにー」

「でも笹山君のメイド似合ってたよねー!」

「だよね、髪が長いからいいよねー」

「紀平さんは……」

「…………」

「…………」


おい紀平さんなんの女装したんだよ、女の子達がお通夜みたいな空気になってんじゃねーか。
……じゃなくて!!


「……ッ、……!!」


近付いてくる声に、心拍数が跳ね上がる。
商品棚のすぐ向こうに客がいるというのに一向に唇を離す気配を見せるどころか激しく唇を貪ってくる四川に心臓がどうにかなりそうだった。
手錠のハメられていない方の手でやつの髪を引っ張り、無理矢理引き剥がそうと試みるがそれでもやつは構わず俺の腰に手を回してきて。
 

「んぅ……ッ!」


あろうことか人のケツを揉みしだいてくる目の前の男に目を見開いた俺は、つい、そう、つい、驚きのあまり咥内の舌に歯を立ててしまった。
ガリッと嫌な音とともに口いっぱいに広がる鉄の味。
顔を歪めた四川は咄嗟に俺から唇を離し、そして手で口を塞いだ。


「てんめェ…」

「お、お前がやめないからだろ!つーか鍵!落ちてんじゃねーか!!」

「うるせえな、自分からキス強請っておいてごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ」


すさまじい曲解。
あまりにも強引すぎる四川の言葉についカッとなった俺が「強請ってねえから!」とすかさず訂正を入れたとき。
予想以上に出てしまった自分の声にハッとした。
しかし、気付いた時にはとき既に遅しというやつで。


「今、なんか声しなかった?」


一人の子がそんなことを言い出し、動いていた複数の足音が止まった。
ぎくりと全身が強張る。
背筋が凍りつき、青褪める俺に四川はにやりと口元を歪めた。
そして、伸びてきた指は唇を割って咥内へ入ってきて、奥へと窄まっていた舌を引っ張り出してくる。


「っぅ……ッ!」

「今更恥ずかしがってんじゃねえぞ」


一瞬、「声、聞かせろよ」と笑う四川が悪魔か魔王かなんかその辺の鬼に見えたのは俺の見間違いではないはずだ。

mokuji
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