三度目の正直 「っ、うる、せぇ…んだよ……ッ」 こういう時、語彙力のなさが悲しくなる。 事実が事実だけに否定することも出来ず、顔を逸らすことで精一杯な俺に四川は無理矢理顔を掴み、顔を覗き込んできやがる。 「うるせぇのはどっちだよ。さっきから犬みたいな声で鳴いてるやつが言う言葉じゃねえよなぁ?」 「っ、い…や…ちょっ、待て……ッ」 「あぁ?『ワン』って言えよ、『ワン』って」 クソ、手が動かせればこんなやつぶん殴ってやるのに。 人のことを馬鹿にしたように笑う四川に殺意の波動に目覚めそうになる。 そんな俺を無視して、四川の野郎は腿を掴んできた。 無理矢理足を開かされるような体勢に関節が悲鳴を上げる。 「ぁっ、やめ、ろってば、ぁ……っ」 足をバタつかせるが、苛ついたように舌打ちをする四川に下着をずらされ、剥き出しになる下半身にぎょっとした。 慌てて足を閉じろうとすれば、割り入ってきた四川の手にケツを撫でられる。 「や、めろ……馬鹿…ッ」 革手袋を噛んで脱ぎ、指を唾液で濡らした四川は窄まりを指先でぐにぐにと突いた。 反応を愉しんでるのだろう。 入りそうで入らない、皺を数えるように指を這わせる四川に、無意識に下半身に力が入ってしまい、微かな指の動きでまで腰が震えてしまうのだ。 「そう言うわりには、随分と物足りなさそうな顔してんじゃねえの?」 覗き込んでくる四川は笑う。 それは人のことを言えるのか。 興奮したように息を浅くする四川を睨み返した時だった。 ガコリ、と頭上から音が聞こえた。 そして、音のした方に目をやり、ぎょっとする。 「へ……っ?!」 一部、丁度柱の付近の天井板が外れていたのだ。 そして、四川はそれに気付いていない。 「しっ、しせん、四川…っ」 「あぁ?!だから俺は四川じゃ……」 「後ろっ!!」 つか、上だ! 異変を知らせようとしたのだが、一足遅かった。 何言ってんだこいつと怪訝そうな眉根を寄せた四川が、「あ?」と背後を振り返った時だ。 一瞬、四川が消えた。 というか、掻き消されたのだ。落ちてきた大量の水によって。 それもすぐに止み、辺りに飛び散った飛沫と、ピンポイントゲリラ豪雨にやられた四川がそこにはいた。 「あ……」 「……」 これは、やばい。俺でも分かる。…やばい。 滴る大量の雫、動きが止まった四川に俺まで凍り付いていると、トドメにタライが降ってきた。 俺が止める暇もなくそのタライは四川の頭に直撃し、カランカランと虚しい音を立て床に転がり落ちた。 目も宛てられないとはこのことか。 あまりにも無残な四川に俺は同情を禁じ得なかった。 「……」 「あ、あの、大丈夫か……?」 「…………っく」 「あのー、し、四川さん?」 「っ、くく、くはっ!はははっ!」 やばい、完全にやられてしまっている。 マスクを剥ぎ取り、濡れた髪を掻き上げた四川はどこぞの悪役のごとく高らかに笑い、そして、笑みを消した。 「……ぶっ殺す」 あっ、これまじのやつだ。 部屋を出ていく四川に、慌てて俺は「おい!」と呼び止める。 「四川!四川!せめてこれ解いてくれよ!!しせーーん!!」 が、俺の叫びは虚しく空にかき消されてしまう。 部屋を出ていった四川。 気付けば紀平さんもいなくなってるし、あいつら放置するならせめてパンツぐらい履かせてくれと泣きそうになりながら俺は意地になって柱に腰を擦り付け、なんとか下着がずり上がらないか試みたが結果は案の定だった。 そして数分後、部屋の監視カメラに気付き死にたくなった。 |