肉体的快感と精神的不快感

言った。
言ってやった。
目を丸くし、完全に表情から笑みを消すヒズミに清々しい気分になったが、それ以上に、笑顔が消えたヒズミが不気味で堪らない。

数秒の沈黙の末、恐る恐るやつを覗き込んだときだった。
ヒズミの手が、下半身に伸びる。


「ぁあ……っ?!」


ベルトを掴み、ガチャガチャと乱暴に外そうとするヒズミに驚き、慌てて振り払おうとするが、構わずヒズミは俺のベルトを外す。
そして、


「嘘吐き」


温度を感じさせない、冷たい声だった。
そう囁くヒズミの顔は、悲しそうに引き攣っていた。
しかし、部厚いレンズ越しの瞳は静かに怒りを灯していて。


「っやだ、ヒズミっ!ヒズミっ!」

「キョウって意地悪だよな。俺が傷つくと思ってわざとだろ?ふふ……はははっ!そんなに俺の気を惹きたいのかよ。可愛いやつだなぁ!お前って!」


ヒズミは笑う。
必死に自分自身に言い聞かせるような言葉を吐きながら、ベルトを緩めたヒズミはスラックスをずらし、腰に抱き着くように下腹部に顔を寄せた。
下着越しとはいえ、すんすんと鼻先を股間に押し付けられ嗅がれれば背筋が凍り付くようで。


「っ、ぁっ、うそ、どこ」

「っはぁ、キョウの匂い。堪んねぇ…」


俺の声なんて聞こえてないみたいにうっとりと目を細めるヒズミは下着越し、性器の膨らみに唇を寄せる。
ぞわぞわと身の毛がよだった。
やつの頭を掴み、髪の毛を引き千切る勢いで引っ張るが腰を抱きしめるヒズミの力は強い。
それどころか、前開きに指を忍び込ませそのまま萎えた俺の性器を掴み、無理矢理外へと引きずり出してくるヒズミに堪らず俺は悲鳴を上げる。


「やだ、やだやだやだ!やめてよ!やだってば!やだ…っ、まじ信じらんねぇ…っ!」


恐怖諸々で縮み込んだそれに軽いキスをし、そのまま亀頭を舐められれば、全身がびくりと震えた。
凍り付いたように体が硬くなる。
そこら辺の牙を剥き出しにした獣に噛み付かれるよりも、それは俺にとって恐怖だった。
だけど、ヒズミにとってはそんな俺の反応すら面白いのだろう。


「こっちまで震えちゃってんじゃん。キョウ、耳まで真っ赤だし。すっげー可愛い」


唾液で濡れた舌がにゅるにゅると全体に絡み付いてくる感触に体内の血液がざわつき始める。
ヒズミにしゃぶられているということもショックの一つだったが、なにより、ヒズミの唾液にまみれ、濡れる自分の性器が熱を持ち始めている事実に絶望した。


「うそぉ…もうやだ……ホント信じらんねぇし……っ」


根本まで咥えられ、まるで丸呑みにされたみたいにやつの口の中の熱が直接伝わってきて、腰が小さく痙攣する。
じゅぽじゅぽと音を立て、唇を使って全体を嬲られれば脈が加速し、全身の血が滾るように熱くなった。
涙が滲む。
気持ちよくないのに、こんなに嫌なのに。
それなのに、こんな恐怖に等しい愛撫に感じている自分に吐き気がして。


「あっ、だめ、吸わないでっ!やだ、ヒズミッ!きたないから!」


じゅるっと音を立て、先走りを吸われる。
なにか悪いものを引き摺り出されるようなその感触に慣れず、慌てて声を上げれば、ちゅぽんと性器から唇を離したヒズミは俺を見上げた。


「なら、俺が舐めて綺麗にしやるよ。それならいいんだろ?」


なにがいいのか全く分からなかったが、俺の制止も聞かずにヒズミは再度勃ち上がりかけたそれを口に含め、そして、裏筋の血管をなぞるように舌を這わせる。


「っ、ぁ、やっ、ぁあっ!」


本当に隅から隅まで隈なく丹念に舌で舐め尽くしてくるヒズミ。
全身の血液が下腹部に集まり、勃起した性器に嬉しそうに頬を緩めるヒズミはずるりと糸を引きながら性器から唇を離す。
そして、愛おしそうに竿に頬を擦りつけながら裏筋をちろりと舌先でなぞっていく。


「ふっ、んん……ッは、熱……」

「っだめ、それ以上はっ!…っで、出ちゃうから……っ!」


やつの長い前髪が性器を掠り、腰が震える。
神経が集まり、限界にまで張り詰めたそれは敏感になっていて。
体の奥から込み上げてくるなにかを察知した俺はなけなしの理性を振り絞って忠告するが、目を輝かせたヒズミは俺の言葉になんか聞く耳も持たず、そのまま先端を頬張った。
そして、先走りを溢れさせる尿道に舌を這わせ、そのまま亀頭ごと吸い上げる。


「ヒズミッ、やめろってば、ぁ、んんっ、や、だめ、も、やばいって!ヒズミッ!」


勢い良く引っ張られるような刺激に目の前がちかちかして、腰が揺れた。
こいつ、まさか。と青褪めるが、性器を咥えられた今、弱点を握られたも同然の俺に我慢という選択肢は残されてなくて。
瞬間、糸が切れたようにドクンと性器が震え、勢い良く精液が溢れ出した。


「ん、ぅうっ!」


背筋がぴんと伸び、全身が硬直する。
ここ最近まともに抜いたことがなかったお陰か量が多く、ヒズミの口の中に精液を注ぎ込むような形になってしまうことが苦痛で苦痛で堪らず、肉体的快感と精神的不快感によるジレンマに戸惑いながらも、決して口を離そうとはしないヒズミの喉がごくごくと音を立て吐き出したばかりのそれを当たり前のように喉奥へ流し込んでいくのを見て血の気が引く。
それだけなら、まだましだっただろう。
射精したばかりで敏感になった俺の性器はヒズミの体温に包まれているお陰が、尿意を催し始めた。
背筋が凍るような思いだった。

mokuji
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