噛み合わない会話 「さっきの譲って子、かわいーね」 なんとなく、ちーちゃんの親衛隊の子を思い出す。 健気そうで透明感のある純朴な感じは嫌いではない。 いかにも男にモテそうな男って感じなんだけど。 まあ、ちーちゃんの親衛隊なんて物好きやっているということは本人もそっちの気ありそうだしそれはそれでいいのだろう。いいのか? 「ええ、お気に入りです。初そうな顔をして下の方はなかなか名器で」 本当、譲君はなんでこんなやつの親衛隊になったのだろうか。 にこにこと笑いながら指で輪っか作ってもう片方の手の人差し指をずぼずぼ差し込むというなんとも下品なジェスチャーをくれるちーちゃんに、そんな疑問を抱かずにはいられない。 しかし、色々ひねくれているちーちゃんが人を褒めるというのは珍しい。 「付き合っちゃえばいいのに」 「はい?」 「かわいーじゃん」 「はい」 「優しそうじゃん」 「はい」 「ちーちゃん、ああいうの好きなんでしょ?」 「突然何を言い出すかと思えば、そんなことですか」 呆れたように笑うちーちゃん。 「そんなことって」と、唇を尖らせた時、細められたちーちゃんの目がこちらを向く。 透き通った、薄い茶色の瞳は深い。 「仙道はああいう方がお好みですか」 「いや、そーゆーわけじゃないけどさ」 「確かに、形がいいものはいいですね。美しいものを愛でると心安らぎます」 返答に迷う俺に構わず、ちーちゃんは微笑む。 相変わらず、謳うような滑らかな声。 普通にしてれば、普通に王子様なのに勿体無い。 なんて思いながらちーちゃんの横顔を目で追いかける。 「でも、僕は完璧なものより傷が入っていたり、くすんでいたり、どこかしら重大な欠点があるものの方が好きですね」 「えっと…B専?」 小難しいことを口にするちーちゃんにそう小首かしげれば、ちーちゃんは「ははっ」と声を上げて笑った。 楽しそうな、まるで普通の男子校生と変わらないちーちゃんの笑顔と笑い声は割りとレアなんではないだろうか。 「ご想像にお任せします」 そしてすぐ、いつもと変わらない対チワワ用の笑顔を浮かべるちーちゃんに益々俺はちーちゃんが分からなくなる。 |