忘れ物にご注意を 本を選び終わって、数冊の参考書を手に自動貸出機の前までやってくるマコちゃん。 その隣に一冊の本を手にした俺は並んだ。 「なんだ、京も読むのか?」 「うん、マコちゃんの真似〜」 「へぇ。借りるからにはちゃんと読めよ」 「うん、また一緒に返しに来ようねぇ」 「そうだな」 目を伏せ、笑うマコちゃん。 本当に読むかどうかわかんないけど、マコちゃんが好きだという読書ってのを自分も知りたいと思ったのは事実で。 本読んでマコちゃんみたく頭良くなったら一石二鳥じゃね?とか思いながら、俺はマコちゃんの後に本を借りる。 本を借り終え、もう帰んのかなーどっか寄りたいなーとか思いながらフラフラと図書館の出入り口へと向かった時だった。 自分の手に本しか握られていないことに気付き、ぎょっとする。 日桷達の名簿が入った封筒がない。 「あ、おい、京。なにか忘れてるぞ…ん?」 どこに落としたっけ、と全身の血が引いていったとき。 カウンター前。 茶封筒を手にしたマコちゃんに俺は青褪めた。 そして、咄嗟に俺はマコちゃんの手からそれを取り上げる。 ほんの、一瞬の間だったと思う。 驚いたように目を丸くするマコちゃんに、しまった、と俺は固まった。 マコちゃんはただ拾ってくれただけなのに、こんな、あからさまに警戒するような真似をするなんて。 「……ごめん、俺」 後ろめたさから口籠る。 どうしたらいいのかわからなくて、茶封筒を隠す俺にマコちゃんは少しだけ目を細めたがそれも一瞬。 すぐに、いつもと変わらない笑みを浮かべた。 「今度は忘れないよう気を付けろよ」 優しい声。 すれ違いざま、ぽんと頭を叩かれる。 そして、そのまま図書館の出入り口へと足を向かわせるマコちゃんの背中に、なんだか俺は叫びたい気持ちになる。 絶対、変に思われた。 もしかしたら傷付けたかもしれない。 然程他人を傷付けようがどうでも良かったのに、なんでだろうか、少しだけ寂しそうなマコちゃんの後ろ姿に胸が痛んで、その隣へ並ぶことを躊躇ってしまう。 「京?」 立ち止まったまま動かない俺に気付いたようだ。 ふと、こちらを振り返ったマコちゃんに呼び掛けられ、俺はおずおずと駆け寄った。 今度は落とさないよう、しっかりと封筒を抱きかかえて。 |