図書館ではお静かに!

この学園は街のど真ん中にあり、許可を得ることが出来れば門限はあるものの好きなように外出することができる。
寄り道というからもしやデートかと胸をときめかした俺だったが、マコちゃんが向かった先は校門ではなく校舎にあるとある特別教室で。


「寄り道って」

ここかよ、と俺は口の中で呟いた。
背の高い本棚に隙間なく詰め込まれた大量の書物。
『図書館ではお静かに!』という張り紙が
至るところに貼られたそれの効果か、やけに静かだった。
学園附属の図書館にて。
なにやら小難しい単語が並ぶ書物を選んでいるマコちゃんは、どうすればいいのかわからず立ち往生している俺を見る。
 

「京は本とか読まないのか」

「読まないよー。なんか眠くなるし」

「こういうのもか?」


そう言って近くの本棚から取り出したのは愛らしい絵が描かれた所謂絵本。
すごい全部ひらがな。


「マコちゃん、俺のことなんだと思ってんの」

「ははっ!悪い、冗談だから拗ねるな」

「むー…」


なんとなく腑に落ちなかったが、マコちゃんの笑顔が可愛いのでよしとしよう。

といったものの、やることがない。
普段いくら暇でも教科書参考書は勿論小難しい単語が並ぶ本は読まないようにしている俺からして、図書館はデートコースとしてはいまいち魅力に掛ける。
ようへー君といいマコちゃんといい、皆図書館好きだなー。
俺といるより本がいいってやつ?うーん、それにしても真剣に本選んでるマコちゃんかっこいいー。でも暇ー。
ちょっとだけ、本相手に妬きそうになる自分に苦笑が出た。
あまりにも退屈で死にそうだったので、俺はマコちゃんに擦り寄ることにした。


「マコちゃんってどんなん読むの?エロ本?」


言いながらマコちゃんの背後から腕を回せば、手に持っていた本を俺に見せてくる。


「違う、参考書だ」

「うわああー、目がァ目がァ」

「なんでダメージ受けてんだよ」


笑うマコちゃん。
今日はマコちゃんはよく笑う。
まあ、怒られるよりはそっちのがいいんだけど。


「マコちゃんってホントゆうとうせーだよね。…まじ俺とは正反対じゃん〜

「…」


本当、こうしてマコちゃんを見ていると思う。
自分みたいなのがマコちゃんと一緒にいていいのかって、返って邪魔なんじゃないかって。
だからといって離れていくような謙虚さは兼ね揃えていないが、もし俺が今マコちゃんに絡んでいなかったらマコちゃんはもっと頭良くなってたりしてたんじゃないのかって思って。そんなこと考えてたら、ちょっとだけ寂しくなる。

マコちゃんの邪魔にならないよう、伸し掛かるのをやめて大人しく待ってようとした時だ。


「京」


マコちゃんに腕を掴まれ、足を止める。
「んー?」とマコちゃんを振り返った時、持っていた本を俺の顔の横に持ってきたマコちゃん。
次の瞬間。
ふにっと柔らかい感触が唇に触れた。
温かいそれが何なのかすぐにわかり、目を丸くしてすぐそばにあったマコちゃんの顔を見つめた時、唇は離れる。


「な、な、なに…マコちゃん…」

「仕返し」


このタイミングで?
まさかマコちゃんがけしかけてくるなんて思わなくて、どきどきと煩い心臓を抑えるけど脈は乱れるばかりで。
顔が熱い。


「い、意味わかんないし。マコちゃんのキス魔っ!あんぽんたん!」

「いや、お前に言われたくないぞ」


タコみたいになる俺にマコちゃんは悪戯っ子みたいに笑って、それで、自分のしたことの重大さに気付いたようだ。
じわじわと赤くなっていく。
慣れないことをするからそうなるんだ。
そう笑って、俺は赤くなったマコちゃんの耳に軽く唇を落とした。
ビクッと跳ね上がり、俺を睨むマコちゃんに、へへーっと笑い返せばマコちゃんは「馬鹿」と呆れたような顔をする。
うん、多分俺は馬鹿で単純な奴なんだろうなぁ。
マコちゃんの笑顔を見ただけで心が満たされる。
そんな自分が嫌いじゃない。

mokuji
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