純京でキス 「純ってさー、キス下手そうだよねぇ」 チームのやつの家で酒盛りした夜のこと。 瓶ビールを抱き枕のように抱えていた仙道さんの言葉に、俺は丁度飲みかけていたジンジャエールを吹き出す。 「な、何言ってんですか、仙道さん」 「あー確かになぁ、テンパって舌噛みそう」 狼狽える俺の隣、ウンウンとわかったように頷く仲間にブチ切れ、「うるせえな、勝手なこと言うんじゃねえ!」と怒鳴ればやつらは「ひぃ!純が怒った!」とわざとらしく逃げる仕草をする。 くそ、ムカつく。 「大体あんたさっきから飲み過ぎなんですよ、ゲロっても知りませんよ」 「いーもん別にぃ、純が掃除してくれるしー」 「勝手に決めんじゃねえ!」 「否定はしないのな」と呆れたように笑う雪崎を睨み、立ち上がった俺はソファーに寝転がって一人占領する仙道さんの元へ歩み寄る。 そして、抱えていた瓶を取り上げた。 「あーっ」 「いい加減にしたらどうっすか。飲み過ぎですよ」 「やだってば、もー、返してよ馬鹿純!」 「ダメです。返しません」 「うー」 唸りながらも堪えたのか、のそりと起き上がる仙道さん。 ざまあみろと思いながらそのまま瓶を遠くへ持っていこうとしたときだ。 伸びてきた白い手に腕を引っ張られる。 強い力。 「うわ」とバランス崩した時にはもう遅く、ソファーの上、仙道の上に跨るように倒れ込む。 押し潰さないよう咄嗟に体勢を取ったが、腕に絡み付く仙道さんの手が邪魔で思うように動けない。 周りの空気が凍り付く。 そして、俺自身も。 「なにしてんですか、この…」 「純、キスしろ」 「…はい?」 「これ、総長命令だから」 また、わけのわからないこと。 この人は自分の言っている言葉の意味を理解しているのだろうか。 いや、してないな。 しているならこんなこと、言えない。普通。 こういう時だけ総長だもんな、と口の中で舌打ちし、俺は仙道さんを見下ろす。 乱れた長めの金髪、長い睫毛、女よりも体格はいいが、それでも同性としては細身の身体。 このシチュエーションは冗談では済まされない。 仙道さんに熱狂している連中にぶっ殺されかねない。 「下手くそくんだから出来ないのかなぁ?」 当の本人は、酒を取られた腹いせにセクハラしてきてる模様。 全く、これだからたちが悪い。 ご褒美にも、嫌がらせにも、上等だが。 しかし、このままでは仙道さんは暴れるだろう。 仕方なく目元にかかった前髪を撫で、額に唇を落とす。 わざとちゅっと音を立ててやり、そのまま顔を離そうとした時、胸ぐらを強く掴まれた。 そして、 「ふ……っ」 まるで殴るような勢いで唇を押し付けられ、一瞬脳味噌が停止する。 なにが、なんで、あれ、つかなんかいい匂いが。 なにこれ。 「っ、ん、んぐぐ……っ」 仙道さんの肩を掴み、無理矢理引き離そうとするが力負けして敵わない。 つーかなんて力だよ、細いくせに、どっから力出してんだよ、くそ! 息苦しい。 全身の血が沸騰するみたいに熱くなって、やばい。 やばい。 このままだと、まじで。 顔の他に下腹部まで熱くなるのがわかっただけに、もう、とにかく穴があったら入りたいくらいで。 だって、仙道さんがしがみついてくるせいで、腰が、脚が、体が…。 ソファーの背もたれに必死に爪を立て、引きずり込まれないよう必死に堪えていたが、とうとうそれも限界が来た。 離れない唇がゆっくりと開き、ぺろりと唇を舐められた時、指先から力が抜け、ずるりと仙道さんに落ちる。 それを合図に、なけなしの理性がブチ切れた。 「せん、どーさん…ッ」 長めの髪に指を絡め、頭を抱き寄せる。 驚いたような顔をした仙道さんが何か言おうとするのを遮って、俺は色っぽく濡れた薄い唇にしゃぶりついた。 再度青い顔して凍りつく外野。 雪崎が慌てて俺を仙道さんから引き剥がそうとしてきたけど、それを振り払って俺は仙道さんを抱き締める。 「っ、ちょ、待っ、んん…っ、ぅ……っ!」 息が混ざり合う。 藻掻くように開かれた唇に舌を入れ、そのまま口内で泳いでいた舌を絡み取れば腕の中の仙道さんの体がびくりと硬直した。 背中に回された仙道さんの指が、皮膚を抓る。 その力は弱々しい。 それに、散々煽られて大人しくできるほど俺は器量な人間でもない。 仙道さんからかけてきた挑発だ。 乗らないわけにもいかない。 「ん、ぅ……ふっ……」 首を振る仙道さんの後頭部を掴み、固定し、口内を舌で嬲る。 舌の付け根から先端まで裏筋をなぞればぶるぶると仙道さんの背中が震え、こちらを見据える目が心地よさそうに細められ、やばい。まじでやばい。嫌いな酒の匂いなんて気にならないくらい、やばい。 いつもの傲慢で高飛車な態度からは想像もできないような弱々しい抵抗が更に欲望を煽った。 本当はちょっとだけ痛い目見せるだけだった。 なのに、本当にこの人は。 このままでは取り返しのつかないことになってしまう。 理性が叫ぶ。 そして、心残りはあったものの嫌われたくないという気持ちが勝り、必死に俺は自制かけた。 「っ、あ…」 ちゅぽんと音を立て舌を引き抜けば、呆けた顔をした仙道さんは名残惜しそうに俺を見上げる。 抱きしめたい衝動に駆られながらも、俺は仙道さんの肩を掴み、引き離した。 「…どうでした?」 御所望のキスは、と引き攣る顔面の筋肉を必死に動かし笑みを作れば、そこで本来の目的をようやく思い出したようだ。 はっとした顔をした仙道さんは、いつもと変わらないシニカルな笑みを浮かべた。 「……超絶下手糞」 はいはいですよね、と苦笑を浮かべた時だ。 するりと腕が伸びてきて、背中にまわされる。 しがみついてくる仙道さんの顔がぐっと目先に迫り、どきりと心臓が跳ね上がった。 「だから、練習三百本」 では、いってみよー。と脳天気な声を出す仙道さん。 そのまま近づく唇にえ、え、と狼狽えていると、次の瞬間、ずるりと仙道さんがソファーに倒れる。 「せ、仙道さん……?」 何が起きたんだ。 そう、恐る恐る仙道さんの顔を覗き込もうとした時だ。 すーすーと規則正しい寝息が聞こえてきて、呆気とられた俺はそのまま硬直する。 おまけ 「なんかさー今日変な夢見ちゃって」 「…は?夢?」 「そうそう、おっさんとベロチューする夢〜」 「誰がおっさんだ!!誰が!!」 「え?」 |