邪魔者

何気なく、引っ張られるように振り返れば、そこにはヒズミの首根っこを掴む石動千夏の姿があった。


「千夏っ!いってぇ、なんだよもう!話は終わったんだろ?!」

「終わってねえっつーの!勝手に終わらせんじゃねえよ!」


そう顔をしかめる石動千夏はきゃんきゃん吼えるヒズミを強引に引き摺り、風紀室へと押し込める。
扉が閉まってもヒズミたちの言い争う声は聞こえてきて、結局、絡まれることなく立ち去ったヒズミに内心ホッとした。





風紀室の前を後にした俺とユッキー。
その間も先程楽しそうに話していたヒズミとマコちゃんの姿が頭から離れず、ただただ混乱する。
そんな俺の隣、不思議そうな顔をするユッキーは唸った。


「しっかし、なんだよ、あの格好。純たちに聞かなかったらまじで誰かわかんねえよ、あんなの」

「…」


ユッキーがヒズミのことを言っているのはすぐにわかった。
それは、俺にもわからない。
わかろうとも思わないし、恐らくやつの思考回路を理解する日は来ないだろう。
押し黙り、俯く俺に気付いたようだ。
ハッとして、ユッキーは「あ、悪い」とつられるように謝罪した。
そして、こちらを見る。


「大丈夫…なわけないか」

「ごめん、ちょっとビックリしちゃってさぁ…」


安堵と不安のジレンマで頭はこんがらがって、とにかくヒズミから逃れられたという事実に力が抜けそうだった。
まだ震えが残った手をユッキーの腕に伸ばし、そのままぎゅっと裾を掴む。
驚いたように、ユッキーがこちらを見下ろした。
なんとなくバツが悪くて、ユッキーの顔を見ることはできなかった。


「…もう少しだけ、一緒にいて」


仙道、とユッキーは呟く。
こんなこと、ユッキー相手に頼んだことは初めてだ。
なるべく、知り合いにはこんなところ見せたくなかったし、情けないお願いをするのも恥ずかしかった。
だけど、今ここで一人にされたら多分俺は。

そこまで考えた時、ぽんっと頭の上に手を置かれた。


「いちいち言わなくてもいいんだって、そーいうことは」


そして、わしわしと髪をかき乱される。
いつもと変わらない仕草、声に、ほっと全身の緊張が解けた。


「ん、ありがと。…先輩」


それにしても、ユッキーはよく俺の頭撫でてくるけどそんなに俺の頭は撫で易い位置についてるのだろうか。
確かにユッキーでかいけど。
と、思いながら、そのままユッキーの腕をぎゅっと強く握り締めたときだった。


「京っ」


廊下の奥から、聴き慣れた声がする。
マコちゃんだ。
走って追いかけてきたのか、急いだ様子のマコちゃんがそこにはいた。


「っ、ま、マコちゃん?」


まさか来てくれるとは思ってもいなかった俺は慌ててユッキーから手を離し、狼狽えながら名前を呼び返す。
その時、ユッキーの方から舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけどきっと俺の聞き間違いだろう。そう思うことにした。

mokuji
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