ほんのちょっと昔の話 前、といってもそれ程前ではない。 俺が前の高校にいられなくなってこの学園に逃げてくる前の頃の話。 毎晩友達と遊び回って気に入らないことがあったら殴ってヤって好き勝手暴れて。 いつの間にかに周りに人が集まっていて、総長なんて呼ばれて、いつの間にかに友達はいなくなって、周りには俺と同じ暴れるのが好きなような連中ばかりがいて、そんで、気付いたら俺が歩くと周りは道を開けるようになってた。 なんとなく、違うだろう、こんな風になりたかったんじゃないだろうと日々疑問を抱きただ遊びと喧嘩に明け暮れた怠慢な日常を過ごしていたが、ある日、それも呆気なく潰された。 月夜に照らされ淡く靡く明るい髪に透き通った青い目。 口許に浮かび上がった三日月型の笑み。 今でも鮮明に思い出す。 返り血を浴びたあの顔を、与えられた痛みと共に。 純は、俺が総長と呼ばれる前からつるんでいた一個下の後輩だった。 昔から負けん気が強く、そのくせ頑固でお節介焼きで、なにかと俺の後ろをちょこちょこついてきては絡んできて。 周りの人間が俺を煙たがったときも、俺がダメになったときも、ずっと側についてきてくれた。 そして、俺がこの学園に逃げた今も純は俺の後を追うようにしてついてきた。 たまに、やつは俺がじいさんになっても着いてくるつもりなのだろうかと心配に思う。 純には俺の世話なんかよりももっと自分の好きなことをしてもらいたい。 そういつも言っているのだが、無駄に頑固な純は聞いてくれない。 今回だってそうだ。 親衛隊だなんてわけのわからないものを結成して。 先ほどの純とのやり取りを思い出す度に複雑になった。 俺は、守られるほど弱くない。 弱くない、つもりだ。今も。 「……」 薄っぺらい手のひらを開いたり閉じたりし、暫くぼんやり眺めていた俺はぎゅ、と固く拳を握った。 大丈夫だ。 そう自分に言い聞かせる。 生徒会室前。 小さく息を飲んだ俺はそのまま生徒会室の扉を開いた。 |