先輩後輩

玉城由良の書類には、目立ったところはなかった。
気になったことといえば何度かの補導歴が少し引っ掛かったが、補導くらいなら俺だってされたこともあるし見るからにあれな会長なら何度か補導歴はついてても納得できる。
俺と会長の接点についても探してみたが、中学は違うし高校も同じになったのはこの学園に来てからだ。
つまり、接点は同じ地域に住んでいることくらいだろうか。
会長の言い草を思い出す限り、どこかで俺と会長は会ったことのあるようだが…正直、全く覚えてない。
こういうことは昔からよくあった。
強烈な出来事、興味のあること以外に対しての記憶力が極端に落ちるのだ。


「…わっかんねぇ」


口に出さずにはいられなかった。
封筒を仕舞い、俺は深く息を吐き出す。
今日のところは、収穫なしってことか。
諦め、その場を立ち去ろうとした時だった。
廊下の曲がり角、人影がチラ付く。
まさか、と思って咄嗟に身構えた時だった。
角からは、見知った顔が現れる。


「仙道」

「ユッキー」


雪崎拓史(たくじ)。
通称ユッキー。
純と同じで昔からの知り合いで、先輩。
人畜無害そうな顔をしているが、昔はかなり悪さをしていた所謂元ヤンだ。
本人は足を洗ったつもりなのだろうが、未だたまに出てくる時がある。
本人は気付いていないようだが。


「なに、どしたの」

「一人にしておくの、気になったから」

「皆心配性だなーもー、俺ってばまじちょー愛されてんじゃん」


出てきたのがユッキーでよかったと安堵しながら、封筒を抱きしめた俺にユッキーは柔らかく微笑み「そうだな」と頷いた。
正直、冗談だったので真面目に返されるとこっちが恥ずかしくなってくる。
そこは突っ込んでもらいたかった。


「あれ、純たちは?一人?」


そして、俺はいつもユッキーと一緒にいる自称親衛隊共がいないことに気付き、尋ねれば困ったような顔をしたユッキーは「なんか皆筋トレに忙しいんだってよ」と笑った。
なんでいきなり筋トレに飛ぶのだろうか。
謎だったが、ユッキーがそれに参加してないだけマシなのかもしれない。
よくわかんないけど。


「…それ」


ふと、抱きかかえていた封筒に目を付けたユッキーは不思議そうにこちらを見た。
内心、どきりとする。


「ん、ああ、ちょっとね」

「なあ、ちょっとそれ見せてもらっていいか」

「別に、面白いこと書いてないよー…って、あ、こら、ユッキー」


言い終わる前に、伸びてきた手に封筒を取り上げられた。
慌てて取り返そうとするけど、ユッキーのがでかいんで手が届かない。
むかつく。
普通のやつならぶん殴って取り返したいところだったが、純に比べてまだ理性的なユッキーになら見られてもいいやって思って、俺は伸ばした手を引っ込めた。
自分がヒズミのことを気にしていると思われるのは、なんとなく悔しいけど。


「…」


無言で封筒から書類を取り出し、目を走らせるユッキー。
なんとなく目を向ければ、ユッキーが見ていたのはヒズミのデータではなく玉城由良の方だった。
無言で、眉を寄せるユッキーの表情は段々と険しさを増す。


「なに、ちょっと、ユッキー顔怖いよ」

「あ…悪い。これ、返すな」


結局、ユッキーはヒズミの書類にはチラ見しただけで封筒を返してくる。
「ん」とそれを受け取る俺。

ヒズミの被害に遭ったのは、ユッキーも同じだ。
他の先輩たちに比べて傷は浅かったが、それでもチーム内でもちょっとのことでは怪我をしないことで有名だったユッキーは大怪我をして病院に入院したこともある。
初めての入院ではしゃいでいたが、それでもヒズミに対して恨み辛みがあることを知っていたので真っ先にヒズミのデータを見ると思っていた俺はまともに興味を示さないユッキーに驚く。
そして、なんとなく違和感を抱かずにいられなかった。

mokuji
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