親衛隊の思案

「それにしても、ヒズミのやつ、どうしてここまで来てんだよ」

「まさか、総長を追って?!」

「つか、あれヒズミとかわけわかんねえよ。あんなんじゃなかっただろ、ヒズミのやつ」


「ていうか、ヒズミって捕まったんじゃなかったのか?」

「それにしても、仙道さん結構ふつーだよな。てっきり俺、もっと凹んでんかと思ったんだけど」

「馬鹿、無理してるに決まってんだろ。俺たちのために!」

「やっぱりあれか、愛の力ってやつか」

「愛?」

「ほら、風紀の…」

「あっ、おい馬鹿!純の傷口に塩を塗りこむな!」


「…」


もろ、聞こえんだけど。
そう返すのも面倒で、椅子の背もたれに凭れかかった俺は反論の代わりに深い溜息を漏らす。

先日、新入生歓迎会があった日。
風紀の連中に容疑者として捕まってやったはいいが、長々と説教垂らされて上開放された時にはとっくに閉会式も終わっていて、作戦はどうなったのかと花崗春日に聞いてみれば「別にあんた居なくても大丈夫だったよ。仙道様の代役で石動様になってたし」と聞かされて、仙道さんの唇を守るために頑張らせた親衛隊は石動千春に舌を入れられたとトラウマになってるわで一体俺達のしたことは何だったのだろうか。
花崗の野郎は目的の玉城由良とキス出来てご満悦そうだったところもムカつく。
オマケに、仙道さんのことだ。
また、何も出来なかった。
仙道さんは大丈夫だと言っていたが、そんな筈がない。
相手はヒズミだ。
何もないはずがない。
それは、俺がよく知っている。
だからこそ、自分の不甲斐なさが堪らなく嫌になった。


「失恋か…」

「だから声でけえって、バカ!」

「風紀の野郎にいいとこばっか取られてんもんなぁ、そりゃ凹むだろ。男として」

「でも、ほら純さんも総長の唇守るため頑張ってたし」

「まぁ、結局副会長が出張ったお陰でチャラになったけどな」


聞こえてきた親衛隊の言葉にピクリ、と全身が反応する。
「しーっ!しーっ!」と慌ててお喋りな仲間の唇を塞ぎ、黙らせる雪崎。
俺はゆっくりと立ち上がった。
その場にいた全員が、ビクッと震え上がる。


「いや、あの、純、これはな」

「…す」

「え?」


「ヒズミの野郎、ブッ殺す」


そうだ、このままでは間違いなくマイナスだ。
チャラにすらなっていない。
歪の野郎にも、風紀の連中にも、まだ。

心の奥底にぐつぐつと溜まりに溜まっていた不満が闘争心となって燃え上がる。
気が付いた時にはいても立ってもいられなくて、俺の足は勝手に走り出していた。


「えっ、ちょ、あっ!隊長!そっち図書室っすよ!隊長!」

「行っちゃった…」

「もしかしたらヒズミを学力テストで任すつもりなのかもしれんぞ!」

「なるほど!」

「こうしちゃいられない!俺達も一から鍛え直すぞ!」

「「おぉー!」」


「お前達のその団結力はなんだろうな」



そう、呆れたように笑う雪崎の声は今の俺には届かなかった。

mokuji
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