逆鱗、お触り禁止。 「おや、もう彼氏帰宅ですか。もう少し時間稼げると思ったのですが…」 あ、やばいかも。と、林檎を喉につまらせそうになる俺を他所に、ちーちゃんはクスクスと笑いながら不穏なことを口走る。 このバカ、マコちゃんはピュアピュアだからそういう冗談通じないんだってば。ほら、めっちゃ顔怖くなってる。 「おい、お前、ここでなにしてるんだ」 「なにって、夜這いに決まってるじゃないですか」 「なんだって?」 林檎が別の器官に入り、咽る。 これもどれも、全部このちーちゃんのせいだ。 血相を変えるマコちゃんを慌てて止める。 「マコちゃん、ちが、ちーちゃんは俺を心配して…っ」 言いかけて、また、げほりと咳が出た。 背中を丸め、うーんと唸る俺にマコちゃんは慌てて背中を摩ってくれる。 「おい、わかった、わかったから無理して喋るな」 大きくて、優しい手。 気持ちいい。 マコちゃんに摩ってもらえて、だいぶ楽になる俺にちーちゃんは「仲がよろしいことで何より」と冷やかしを入れてくる。 こいつに言われると含みがあるようで素直に喜べない。 「彼氏さんも戻ってきたことですし、僕もそろそろ戻りますね」 「ちーちゃん、ありがと」 「気にしなくてもいいですよ。…それに、素直な仙道は少々気味が悪いですしね」 「24時間年中無休で気味が悪いあんたに言われたくないんだけど」 そう言い返せば、一笑したちーちゃんは小さく会釈し、そのまま開きっぱなしになっていたカーテンから外へ出る。 ちーちゃんが出ていってすぐ、マコちゃんはカーテンを締め切った。 本当、わかりやすい。 |