罪の果実 「ちぃ…ちゃ…っ」 「…男のケツ追い回してたんじゃねえのかよ」 「それよりも、弱った親友を見るのも楽しそうだったもので」 そう言って、こちらを見るちーちゃんは軽く手を振ってくる。 相変わらず気障なちーちゃんだけど、俺よりも落ち着いているのは間違いなくて。 「はッ、悪趣味野郎」 「褒めてるんですか?」 逃げようとも、出ていこうともしないちーちゃんはごく当たり前のようにベッドに近付き、手をつく。 そして、玉城の顔を覗き込んだ。 「貴方も、随分と楽しそうなことをしてますが、そういう嗜みは閉会式終了後にしていただけませんかね」 「まだ閉会式まで時間あるだろうが」 「会長の場合、時間が間に合わなさそうなので」 「…食えねえ奴」 舌打ち代わりに吐き捨てる玉城由良。もといかいちょー。 与えられる不快感に険しい表情の会長に、ちーちゃんは怯むわけでもなく「すみませんね、僕は食べる専門なので」と笑いながら肩を竦める。 こうなったちーちゃんは蛇よりもしつこいということを知っているのだろう。 舌打ちをし、盛大な溜息を吐いた会長は「白けた」と吐き捨てるなり、俺の上から降りた。 そして、ちーちゃんに目を向けることなくカーテンの向こうへと出ていく。 「全く、油断も隙もありませんねぇ」 「…ちーちゃん」 「話は聞いてましたが、随分と弱ってますね。ゴキブリみたいにタフな貴方がそこまで弱体化するのも珍しい」 「…ちーちゃんうざい」 会長がいなくなったベッドルーム。 どこで用意してきたのか、しやりしゃりしゃりとりんごの皮を器用に剥いているちーちゃんは「おや」と俺を見る。 「そんな可愛く罵って僕のことを誘ってるんですか」 「…ちげーし、つか馬鹿じゃん」 まさか会長を追い払ってくれるとは思わなくて、ただの性欲の塊じゃないんだなとちょっとだけ見直していたらこれだ。 そんな自分が恥ずかしくなって、シーツを頭まで被れば、シーツ越しにちーちゃんが笑う気配がした。 「そこまで言う元気があるなら十分ですね」 本当は、元気なんてなかった。 喋るのも億劫だったけど、なんでだろうか。ちーちゃんと一緒にいると、なんか、調子狂わされる。 「仙道、いつまで篭ってるんですか。ほら、あーん」 「ん…あーん」 林檎の甘い香りに誘われ、顔を出した俺は言われるがままに口を開ける。 そしてそのまま目の前に差し出される林檎に齧り付こうとした時だった。 シャッと音を立て、カーテンが開く。 今度は誰だ。 絶え間なくやってくる訪問者たちにそろそろ苛々し始めていた矢先だった。 「悪い、今戻って…」 聞こえてきた声に硬直する。 それは、相手も同じだった。 ぱくりと咥えた林檎がさくりと音を立て、口いっぱいに甘酸っぱい果汁が広がる。 慌てて戻ってきたのか、じんわりと汗を滲ませたマコちゃんは、ちーちゃんと俺に目を向けたまま硬直していた。 |