忘れたことすら忘れている

肩を押さえ付ける手が離れ、強引に制服の裾を捲りあげてくる。
素肌にやつの手が触れ、寒気が走った。


「この、っ」


咄嗟に、振り払おうと体を捻じれさせれば腰に鈍い痛みが走る。
あまりの激痛に全身から力が抜け落ちた時、玉城にがっしりと腰を掴まれ、無理矢理持ち上げられた。


「はっ、ぐ、ぅ」

「おい、暴れんなよ。和真にやられた時の傷、治ってねぇんだろ?」


クスクスと笑う玉城は、そのままベルトを緩めてくる。
全身から血の気が引いた。
俺の股ぐらの間に膝立ちになる玉城に、嫌なものを連想してしまう。
咄嗟にやつの顔面を蹴り上げようとするが、またも避けられる。ムカつく。


「…知らない、和真なんてやつ」

「ヒズミカズマ」


しゅるりと、音を立てベルトが引き抜かれる。
『ヒズミ』という固有名詞に、全身の筋肉が緊張した。


「聞き覚えないわけないよな」

「…っまじ、なんなの、お前!何がしたいのっ!」


わけがわからなかった。
ただ、こいつが俺のことをよくわかっていないことはよくわかる。
それでも、こうやってわけのわからないまま神経を逆なでされるのは割と本気で不愉快だ。

痛みを堪え、脱がそうとしてくる玉城由良の手首を掴めば、やつは目を丸くする。
そして、次の瞬間「ははっ」と乾いた笑い声を上げた。
奴の目が、俺を見る。


「お前、あの時のこと、なんも覚えてねえのか」

「……っは?」


まるで、俺と奴の間に何かがあったかのようなその言い草。
心当たりはなかった。
なかったはずだ。
ただの狂言だろう。
俺を掻き乱すためだけの。
なのに、理解不能と疑問符を浮かべる俺に玉城の顔からは笑みが消えていく。
でも、だって、本当に俺は玉城由良を知らない。
知らないんだ。
だから、こんな風に嫌がらせを受ける筋合いもない。

そう、結論付けた時だった。
シャッと音を立て、カーテンが開かれる。


「おや、お楽しみ中でしたか」


そう言いながら、ベッドの上で揉み合いになっている俺達を見下ろすのはマコちゃん…ではなく、涼しい顔をしたちーちゃんだった。
ニコニコと微笑むちーちゃんに、玉城由良は舌打ちをする。


mokuji
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