消滅願望

シーツを手にして戻ってきたマコちゃんは、それから甲斐甲斐しく俺の面倒を見てくれた。
飲み物も今度はちゃんと受け取れたし、小腹が減ってるんじゃないのかとお菓子も貰った。
マコちゃんは普段お菓子食べない人なのだが、もしかしたら俺のために用意してくれていたのかもしれない。
それでも、やっぱりマコちゃんの目を見ることはできなかった。
マコちゃんの真っ直ぐな目は、すぐに見透かす。





「委員長、居ますか」


しばらくした時だった。
カーテン越しに声を掛けられる。
偉そうで、どこか不躾なその声は風紀副委員長の石動千夏だろう。
そして、千夏がいう委員長は。


「千夏か。ちょっと待て」


呼ばれたマコちゃんは、困ったような顔をして俺を見た。
選択しなんて選ぶほどないのにわざわざ俺に求めるんだから、そういうところが憎めない。


「俺のことならもうだいじょーぶたから」


出来るだけ、頬をへにゃりと緩ませ笑った。
マコちゃんがどんな返事を期待しているのかくらいは想像つく。
だから、俺はせめてマコちゃんの足手まといにならないように、それに答える。


「すぐ戻ってくるから」

「うん、ありがと」


短いやり取りを交わし、マコちゃんはカーテンを開き外へと出ていった。
暫く千夏とマコちゃんの声が聞こえたが、すぐに数人分の足音は保健室から消える。


「……」


今度こそ、一人になった。
俺は、口を開き呼吸を繰り返す。
いつの間にかに俺は息を止めていたようだ。


無意識に、手首に手を伸ばす。
うっすらと残る傷をなぞる。
なぞる。
強く、爪を立て、皮膚を掻き破るように。


「……っは、ぁ」


口を開け、空気を取り込む。
全身の血がざわざわと疼く。
気持ちが悪い。
気が狂いそうなくらいの自己嫌悪。
自分がどんな顔をしてマコちゃんと話していたのかを考えれば考えるほど吐き気がして、今すぐ消えてなくなりたかった。

俺なんか、マコちゃんに心配されるような価値はないのに。
ないのに。

自分が嫌いだった。
ずっと。
ヒズミと会ってからもっと嫌いになった。
それでも、マコちゃんが好いてくれている自分だけは嫌いじゃなかった。
だけど、今は。

その時だった。
ぬっと伸びてきた手に、手首を掴まれる。
そして、無理矢理引き剥がされた。


「そんなもんじゃ血は出ねぇだろ」


顔を上げれば、そこには見たくない顔があった。


「出血死してえんならこれ、貸してやろうか」


そう言って制服の胸ポケットからシルバーの細いシャーペンを取り出したかいちょー、もとい玉城由良は笑った。
楽しそうに、笑った。

mokuji
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