口と背後にご用心

マコちゃんとはこの学園に転入したときからのルームメイトで、まあ、そういう関係だったりする。
と言ってもセックスもしたことないしまともに告白したわけでもない。
友達以上恋人未満という妙なラインをキープした感じだろうか。
俺はマコちゃんが大好きだし、マコちゃんもきっと俺が好き。
そんなよくわからない関係。
でも、俺はこの中途半端な立ち位置は嫌いじゃなかった。

今日、生徒会室で生徒会役員たちとの顔合わせがある。
とは言っても、人気投票で選ばれたやつらばっかだから大体わかるんだけどね。
行く必要はないかと思ったんだけどなんか大切な話とかあるかもしれないから取り敢えず俺は自室を出た。


「おはようございます」


と、同時に扉の横から聞きなれた柔らかい声。
つられて振り向けば、そこには背の高い無造作な茶髪の生徒が立っていた。
顔は童顔寄りの美青年。


「純、なにやってんの」

「なにって、生徒会会計・仙道京(せんどうみやこ)様の警護に決まってるじゃないですか」

「なにその敬語」

「親衛隊長なるもの我らが仙道様を敬うのは当たり前です」

「なに、とうとう頭おかしくなっちゃったの?うけるー」


あまりにも慣れない敬語を使うものだから変に裏返る純こと佐倉純(さくらじゅん)を指さし笑えば、眉を寄せた純は「指をさすな指を」とやっと敬語をやめる。


「人が護ってやるって言ってるのに、なんだよその態度は」

「なにって、ねえ?つかなにその護るって、親衛隊ってなに?」

「親衛隊は親衛隊だろ。今日から俺が仙道さんを護るから」

「はい意味わかんなーい」


話が見えないとはまさにこのことか。
ただでさえ回らない頭が謎かけみたいな純の言葉で混乱しまくってる。


「つかさ、まず俺が君に護られる意味がわかんない。俺が君に護られなきゃならないような弱っちょろいやつに見えんの?」


なるべく感情を声に出さないようにしながら尋ねれば、純は首を振る。


「まあ、仙道さん細いですし生白いですし。仙道さんのこと知らないやつらは勘違いするんじゃないんですかねえ?」

「ふーん、一応鍛えてんだけどなあ」

「わかってますよ、それくらい。何度もサンドバッグにされたんですから」

「だったら護るとかそーいうのやめてくんないかな。虫酸走っちゃうから」

「別に仙道さん怒らせたくて言ってるわけじゃないんですよ」

「結果的に俺は頭にきてんだけどなあ」

「それは謝ります。すみません」


そういって躊躇いもなく90゚頭を下げる純の後頭部を睨む。
顔を上げた純と目があった。
まっすぐな目。


「皆心配してるんですよ」

「なにがぁ?」

「仙道さんが生徒会に入ったこと」

「ふーん」

「ミーハーな連中の間で早速仙道さんが噂になってるそうです。今まで仙道さんはずっと舞台に上がらなかったじゃないですか。だから余計注目を浴びて」

「へえ」

「ただでさえ生徒会に入ったら人目に晒される機会が増える。だから、せめて俺らでなんとかして…」


黙って聞いてようと思ったけど、思ったより俺の気は長くないらしい。
純の言葉を遮るように、俺は純の横の壁を片手で突いた。
バンと大きな音を立つ。
びくりと跳ねた純は怯えた顔で俺を見上げる。
それをほだすように俺は笑顔を浮かべた。


「なんとかってなに?まさか、俺が素人相手にあっさり襲われるとでも言うわけないよね?しかもなに?俺を護る?無理無理寝言は夢で言ってよ。

だってさ、君、一度も俺に勝ったことないじゃん」

mokuji
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