好きな人の好きな人は嫌いな人

空き教室へと入ってくるは揃った大勢分の足音。
風紀と書かれた腕章をつけた男子生徒数人の先頭、そこに立っていた集団の頭もとい風紀委員長は俺の姿を見るなり目を細める。


「なにがあったか詳しく聞かせてもらおうか。……勿論、指導室でな」


鬼の風紀委員長、敦賀真言。
このタイミングで現れるかと内心冷や汗が滲む。


「この場にいる全員捕捉しろ」


辺りを見渡し、死屍累々のそこに眉一つしかめるわけでもなく相変わらず凍り付いた表情で他の委員に命じる。
「わかりました」と声を合わせる委員たちは、敦賀真言の言葉を合図に動き出した。


「は?なんだよ、俺は何もしてねーって!俺はキョウを助けただけなんだってば!」


すぐ目の前、風紀委員に捕まえられそうになった歪が慌てて眼鏡をかけ直しながら暴れている。


「……キョウ?」


そんは歪の言葉が気になったようだ。
そして、歪の側で眠りこけている仙道さんを見つけるなり、表情が変わった。
一瞬、顔の筋肉が強張り、そしてすぐ敦賀真言は笑みを作る。


「別にお前を煮て食うわけではない。ただの事情聴取だ」

「本当か?殴ったりしねーだろうな!」

「なぜそんな真似をする必要がある。安心してくれ。うちの風紀委員は皆優しい」

「そうか!ならよかった!あんた、いいやつなんだな!名前は?」

「敦賀だ」

「そうか!敦賀!なぁ、指導室ってどこにあるんだ?教えてくれよ!」


そして、あっさりと敦賀真言に言い包められている歪に呆れを通り越して脱力すらした。
正常なやつではないだろうと思っていたが、単純なのか、それとも馬鹿なのか。
人を疑うことを知らない。
だからこそ、その真っ直ぐさは鋭い凶器ともなる。


「君、彼を指導室まで連れて行ってくれ」


近くにいた風紀委員の肩を掴む敦賀真言はそっとその委員になにかを耳打ちする。

それを聞いた風紀委員は顔を青くしながらも「は、はいっ」と歪を連れて空き教室を後にした。

気絶している生徒たちが次々と運び出される。
せめて、仙道さんの無事だけでも、と思ったが、どうやら俺にもやってきたようだ。


「おい、何をボサっとしてんだよ!さっさと歩けこのノロマ!」

「うるせーよ、この…っ」


人が大人しくしてるからって調子に乗りやがって。
わざわざ副委員長入れた数人の生徒が俺を囲む。
風紀は大嫌いだが、今ここで暴れる気はさらさらない。
ただ、気がかりが無いといえば嘘になるが。

引っ張ってくる風紀委員長、石動千夏の手を振り払い、俺は再度仙道さんに目を向けた。
すると、仙道さんの元へ歩み寄った敦賀真言が仙道さんを優しく抱き起こしていた。
ムカツクけど、仙道さんの心配はいらないようだ。
そんな姿を最後に、俺は短気拗らせた石動千夏に無理やり空き教室から引きずり出された。


mokuji
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