あの時と違うもの

背中に当たる硬い感触。
空き教室内に充満する血の匂い。
上から覆い被さってくる、やつ。

やつが妙ちくりんな変装をしていることを除き、あの時と全く変わらないシチュエーションに青ざめる。


「いやだ、やだってば…っヒズミ…っ!」


服を捲り上げられ、性急に脱がされる。
人目があるとかそんなこと気にする余裕なくて、これから奴が何をしようとしているのかが安易に想像できてしまった俺はパニック状態に陥る。
細い奴の腕を掴み、皮を引き裂く勢いで引っ掻くが、ヒズミはまるで猫に引っかかれたかのような、寧ろ楽しそうな顔をしていて。


「恥ずかしがってんのか?確かに久し振りだもんな。俺も、ずっとキョウに会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて堪んなくてキョウの顔見た時から我慢できなくてやばいんだよな」


引っかき傷からだらだらと流れる血液を気にも止めず、赤くなった指先で自分の下腹部をなぞるヒズミ。
つられて視線を落とした俺は、不自然なまでに膨らんだそこに寒気と恐怖を覚えた。


「ひ、ぃっ」

「なぁ、覚えてる?初めてお前とヤッた時、キョウってばずっと俺の咥えたまんまでさ、離そーとしねえの!可愛かったよなぁ、あのときのキョウ」


今までのどこで、興奮するようなやり取りがあったというのか。
うっとりと目を細め、唇を舐めるヒズミがただただ気持ちが悪くて。
無理矢理剥かされ、露出した胸元に心臓を探るような手付きで触れてくるヒズミの指から逃げようと身じろぎをする。
が、目の前のこいつには俺の抵抗なんて可愛いものなのだろう。


「いやだ、やっ」

「ああ、勿論今のキョウも可愛いけどな!」

「やだよ、やだってば……っ」


大きな声を出す気力もなく、うわ言のように繰り返す。
やつの耳に俺の言葉が届かないとわかってても、口先だけの抵抗をするのはまだ自分のプライドが残っているからだろう。
受け入れるのは簡単だった。
自分を自分だと認めずに、ヒズミの気の済むようにする。
昔、そうやって自分を殺すことによってヒズミの相手をしていた。
でも、今は、こんな自分でも殺すことができなくて。


「マコちゃん…っ!」


いくらみっともないとしても、助けを求める相手がいるという事実に僅かに安堵する。
だからか、マコちゃんの名前を出した瞬間にヒズミの目の色が変わったことに気付かなかった。

mokuji
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