ご褒美は大切です 「…なに?」 なるべく動揺を悟られないよう、変わらない口調で答える。 答えた、つもりだたが予想よりも声は低くなってしまった。 会長は笑う。 「お前はどう思う」 「かいちよー、主語ないんすけど」 「新ルールのことだ」 「どうって、別にいいんじゃない?」 「本当にいいのか?」 念を押してくる、含んだものの言い方になんとなく不愉快になる。 薄ら笑いを浮かべ、こちらのようすを楽しむその無駄に整った面を握りつぶしたくなったが我慢する。 「お前、出席番号はいくつだ」 「そんなのいちいち覚えてないけど」 「和馬は奇数だ」 和馬。 日桷和馬。 ヒズミ。 いま、このタイミングでそんなことをいってくる会長の意図が分かり、意識的に顔の筋肉が強張るのが分かった。 こいつ、ヒズミから何を聞いたんだ。 恐怖や動揺よりも、それをネタにからかってくる会長に腸が煮え繰り返りそうになる。 「そうだな、おい双子。さっきのあれも新ルールに追加するか」 そんな俺の視線に気がついているのか気がついていないのか、不意に席をたつ会長はきゃいきゃいはしゃいでいる庶務に声をかける。 ピタリと動きを止めた双子は顔を見合わせ、会長を見た。 「新ルールって」 「優秀者に会長がちゅーってするやつ?」 同じ声で続ける双子に会長は変わらない尊大な口調で「そうだ」と頷いた。 ますます意味がわからなくて、目を丸くした俺は会長を睨む。 今度は目は合わない。 会長は得意気に頷いた。 そして、「これは追加ルールなんだが」ととんでもない提案を口にした。 「逃走者で一番多く仲間を助けたやつには俺から、鬼で一番逃走者を捕まえたやつには会計からキスの褒美というのはどうだ」 これほどまで笑えない冗談はあっただろうか。 |