敵を知るには周りから

「…よーへい君」


どうやら俺はヒズミとの悪夢に気を取られ彼の気配に気付かなかったようだ。
迂闊だった。


「……手首、どうかした?」

「ぅえ?」

「押さえてる」


そうよーへい君に指摘されつられて自分の手元に目を向ける。
手首に引かれた蚯蚓が張ったような一本の線を思い出し、咄嗟に俺は手を背に隠した。


「いや、なんか虫に刺されちゃったみたいでさー痒くて痒くて」


慌てて笑顔を取り繕い、俺はよーへい君に笑いかけた。
虫は虫でも猛毒を孕んだ害虫だろう。
ヒズミの顔が頭を過り、咄嗟に振り払った。
よーへい君は相変わらず無表情のままで。
なにを考えてるかわからないその目でじっと瞳の奥を覗かれればまるで頭の中まで見られるような不思議な感覚に囚われてしまい、不思議と目が逸らせなくなった。

まさか、見られたのだろうか。
傷跡。

元々隠していたわけではないが、なんだか聡そうなよーへい君には見られたくなかった。
嫌な汗が滲む。


「……そう」


対するよーへい君は結局なにも言わずに俺から目を逸らした。
気を遣ってくれたのか本当になにも気付いてなかったのか俺には判断つかなかったが、あの目が逸らされ俺はほっと安堵する。


「あの、さ。よーへい君」


音もなく現れたのはビックリしたが、こんなところでよーへい君と出会えたことは俺にとっていい機会なのだろう。
せっかくだから、会長たちのことを聞いてみるか。


「……なに?」

「…あの転校生君ってさぁー、うちの会長と仲がいいわけ?」


まどろっこしい駆け引きはあまり得意ではない俺は単刀直入に尋ねることにした。
無表情のまま黙り込むよーへい君。
どうやら考えてるらしい。


「……なんで?」

「や、なんかさっき生徒会室行ったらあの転校生君と会長がなんかしてたから」


そう見た通りのことを問い掛ければまたよーへい君は黙った。
本人は考え事してくれているのだろうが急に無表情のまま黙られてるとなにか気に障ったんじゃないかと心配にせずにはいられない。
そんなとき、不意によーへい君は口を開いた。


「セフレ」

「へ?」

「…会長、手が早いから」


だから、転校生にも手を出したんじゃないか。
そんなことを大真面目に口にするよーへい君に俺は硬直する。

いや、有り得ない。あのヒズミが。いやでも、ヒズミだし。

というか、だとしたらどっちがどっちなんだ。

一瞬想像してしまい全身からさぁっと血の気が引いていくのを鮮明に感じた。

mokuji
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