暴走後の心的バウンド 「京」 目があって、マコちゃん、と呼ぼうと口を開くより先にマコちゃんに名前を呼ばれる。 怖い顔。 右腕に風紀の腕章をつけた人たちがいっぱいになった化学準備室の中。 純の隣にいた俺を見付け、マコちゃんはずかずかとやってきた。 「なにがあったんだ」 「なにもってぇ、いつも通りだよー?そこの子たちが襲われそうになってたからさぁ」 「なら、なんだこの惨状は」 「俺がしたんですよ」 血まみれで倒れる不良生徒たちを一瞥し、問い質してくるマコちゃんにそう答えたのは純だった。 「こいつら、注意だけじゃ聞かなかったんすよね。逆ギレして仙道さんに殴り掛かろうとするから慌てて仲裁に入ったんです」 「お前は仲裁の意味をわかっているのか。どう見ても一方的な暴行にしか見えない」 「ですから、色々遭ったんですって」 純を見るなり眉間のシワをさらに深くさせるマコちゃんに肩を竦める純は呆れたように笑う。 「詳しくはそこの被害者の子に聞いて下さい。どうせ、俺が言っても信憑性ゼロなんでしょうし」 自虐的な純に訝しげな眼差しを向けるマコちゃんはふんと鼻を鳴らし純から視線を逸らす。 「最初からそのつもりだ」 吐き捨てるその言葉は冷ややかなもので。 なんだか俺まで責められてるみたいで胸が痛んだ。 いや、みたいな、じゃないか。そうなんだろう。 「千夏、佐倉純を連れていけ」 側にいた金髪の不良みたいな男子生徒に声をかけるマコちゃん。 千夏。 風紀副委員長・石動千夏。 ちーちゃんの双子の弟で、不良崩れのくせに風紀に入ってるやつ。 因みに俺はこいつが苦手だ。 だって、なんか目の敵にされてるし。 「うっす」 そういって純の腕を掴んだ千夏は擦れ違い様ちらりとこちらを見る。 短い眉。 鋭い目付き。 派手な金髪を無造作に弄った千夏はちーちゃんと似ても似つかない。 また制服がどーとかいちゃもんつけられるのが嫌で目を逸らした俺は引っ張られる純に目を向けた。 「純、」 ごめんね。 そう続けようとしたとき、こちらを振り返った純はへらりと笑い暢気に手を振り返してきた。 昔、警察に捕まりそうになったとき適当なやつ引っ張って生け贄にするのはよくやってた。 だけど、やっぱり、何故だろうか。 その相手が自ら望んで濡れ衣被ろうとしても、純だからか、なんとなく息苦しくなる。 すっかり冷静になった俺は数分前の自分の行動を悔やんだ。 俺のバカ、短気、あほ。 やはり、我慢するべきだったんだ。 しかし、なってしまった今なにすることもできず。 「京」 後になってから酷く後悔していると、マコちゃんに呼ばれた。 顔を上げたら目があって、「ちょっと来い」とマコちゃんは化学準備室の外を指差す。 相変わらずその顔はこわばったまま。 残念ながらデートのお誘いではないらしい。 |