親衛隊の使い方

ガラスが割れるつんざくような音に呻き声。
薬品が飛び散ろうが構わず襲い掛かってくる連中をモップの柄で滅多打ちにして血塗れの顔面をモップで拭うように叩き潰す。
気が付いたら開いた口から笑い声が洩れた。
とうとう泣き出した男子生徒二人は「京様もういいです、もういいですから」と俺にしがみついて止めてくる。

いいわけないじゃん。
どうせならもう二度とこちらに歯向かわないように徹底的にやらなければいつかまた牙を向けられるのはわかっている。
言い聞かせるように口の中で呟く。
本心ではわかっていた。
本当は男子生徒たちのことなんかどうでもよくて誰かをぶん殴りたくて正当防衛を理由に不良を痛め付けていると。
わかっていたし、自分がそれを容認しているのもわかっていた。

数分もすれば、全員床に落ちていた。
立ち上がる気もないらしく頭を庇ったまま踞る不良の顔面を蹴りあげそのまま馬乗りになって鼻血やら涙やらでぐちゃぐちゃのどろどろになった顔面に何度も何度も何度も何度も何度も拳を叩き込む。
途切れる声。
歯が欠けたのか口内から溢れる血。
前歯全部折ってやろうと思って高く拳を振り上げたときだった。

不意に何者かに手首を取られる。


「仙道さん」


純だった。
いつの間に部屋に入ったのだろうか。
それともただ俺が気づかなかっただけか。


「純、邪魔しないでよ」

「風紀が来ます」


その言葉に、純を見上げた俺は目を見開く。
その側には不安で目を濡らした男子生徒が二人。
なにか化け物を見るような目でこちらを見ていた。


「誰が呼んだの」

「あれだけ暴れたら気付きますよ」


そう言って笑う純は俺の腕を軽く引っ張り立ち上がらせた。


「これは俺がしたってことにするので仙道さんはその上着脱いで下さい」


血、ついてますよ。
そういう純につられシャツの上から羽織っていたカーディガンに目を向ければ、返り血だろう。所々赤黒く滲んでいた。
うわ、これお気にだったのに。最悪。


「そこの二人も、今のことは内密に。ね?」


怯える男子生徒二人に向き直った純はまるで子供をあやすような優しい口調で続ける。
そのくせその目には優しさは一切なく、自分達の立場の危うさを改めて理解したらしい男子生徒二人はこくこくこくと何度も小さい顎を引き頷いた。

それから、純の宣言通り風紀委員のやつらが駆け付けてきた。
その中にはマコちゃんの姿もあった。

mokuji
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