選択肢は逃避のみ 「前からだけど、見ない内にまた色っぽくなったな。最近は喧嘩してないのか?指なんてほら、こんなに綺麗になって」 トリップしかけた思考は伸びてきたヒズミの手に手を握られ一気に現実に引き戻される。 同時に、俺はそれを乱暴に振り払った。 パン、と乾いた音がする。 ぐるぐる眼鏡越しにヒズミの視線を感じ、全身から嫌な汗が滲んだ。 「っなんで、君、」 「せっかく友達になったのにキョウが勝手にいなくなるからだろ」 会いたかった。 そう目の前で微笑むヒズミはあの夜に見たときの姿とはかけ離れていたが、纏う独特の威圧感や雰囲気は変わらず、否、昔よりも鋭くなっていて。 改めて目の前の珍妙な転校生がヒズミだと確認すれば目の前が真っ暗になるのを感じた。 「…キョウ?」 「っ」 そして、なにも言わない俺を不審に思ったのかヒズミに肩を掴まれそうになる。 咄嗟に身を引き、気が付いたら俺は生徒会室から飛び出していた。 会長の前だなんて気にする余裕も取り繕う余裕も残されていない俺はただ目の前の異質から遠ざかることが精一杯で。 背後からヒズミが名前を呼ぶけどそれは俺の背中を押すように足を加速させた。 前は仲間を守るために走っていたが、今は自分を守るために逃げるのが精一杯で。 あれからどれだけ自分が落ちぶれたのかがよくわかった。 だけど、どうしようもない。 ただ自己嫌悪感と不安と恐怖に呑まれそうになっていく。 |