既視感 「ひ、ずみ」 一文字一文字をなぞるように呟く。 ヒズミ。 歪。 そう、改めて目の前のもじゃ男を見た瞬間俺の中になにかが突き抜けていった。 『キョウさん、やべえっすよ。三浦たちがやられたって!しかも相手は一人!』 飛び交う怒号。 三浦ってのはうちのチームでも腕っぷしの強いやつでそれだけが取り柄みたいなやつだった。 『総長、このままじゃ俺たちの顔が立ちません。俺らにやらせてください』 『総長』 一人二人三人と顔見知りたちが次々に謎の奇襲に遭い、俺の周りから消えていく。 そのことに焦燥を覚えたのは俺だけじゃなかった。 『総長、大丈夫です。ここは厳重体勢取ってますし、幹部のやつらに張らせてるので』 当時、副総長と呼ばれていた純は言う。 その言葉はあっさりと裏切られた。 『出た、あいつだ!あいつが歪だ!』 外から聞こえてきた声を合図に凄まじい物音がした。 舌打ちをした純は総長は逃げてくださいと耳打ちし、外へ駆け出す。 徐々に近付いてくる破壊音。 逃げれるわけがなくて慌てて純の後を追おうとしたときすぐ近くでガラスが割れる音とともに純の呻く声が聞こえて。 そして、壊れた扉からあいつは現れた。 『あれ?あとはもうあんただけなわけ?』 血濡れた服。 手には鈍く光る鉄パイプが握られていて、やつはそれを引き摺り歩く。 コツリ、コツリと。 浮かべた無邪気な笑み。 威圧感にすくんだ足。 今もあの頃もなにも変わらない。 ただ一つ変わったとすれば、今俺の手にはナイフが握られていないことくらいだろう。 |