脊椎反射と見えた影 「もう、大丈夫なのか?」 「…………ん、大丈夫。マコちゃんの顔が見れたからね」 「……本当か?」 「…………本当だよ」 「…だったらいいが、無理はするなよ。千夏にも伝えておく、お前が具合悪そうならすぐに保健室へと連れて行けってな」 「…………絶対なっちゃん嫌がりそー」 『なんで俺が』と不機嫌な顔していうなっちゃんが頭に浮かぶ。 「……それにしても、京、随分と千夏と仲良くなったみたいだな」 「仲良くって……そお?寧ろ、なっちゃん俺のこと絶対うざがってると思うんだけどなー」 「そうか?…電話口でも思ったが、あいつは嫌いなやつほど何も言わないタイプだからな。……それだけお前のことを心配してるっていう証拠だ」 「…………ふーん?」 どことなく嬉しそうなマコちゃんに、なーんか腑に落ちない俺。 こういうのって、普通嬉しいもんなのかな。 「……マコちゃんはさぁ、俺となっちゃんが仲良くなったとして……その、ヤキモチとか妬かないわけ?」 「っ、な、何を言い出すかと思えば…………」 「マコちゃんはヤキモチ焼きだと思ってたんだけどなぁ」 「…………あのなぁ………………」 呆れ果てるマコちゃんだが、返す言葉が見つからないらしい。 うーーんと考え込むような仕草で言葉を探し、そして紛らすように咳払いを一つ。 「第一、あいつはそういうやつじゃない。…………確かに、妬かないといえば嘘になるけどもだ」 「へーーー」 「……おい、やめろその目」 「…………でもそうだね。なっちゃんはお人好しっぽいし、口煩いけど……なんか、最初の頃のマコちゃんに似てる」 「…………………………そうか」 「…………あ、もしかして今ちょっと妬いた?マコちゃんの嫉妬ポイント謎だわー」 「……悪かったな、器の小さな男で」 「……へへ、でもそういうマコちゃんも好きだよ」 マコちゃんといると不思議だ。 さっきまであんなにバッキバキに固まっていた表情筋が勝手に緩むのだ。 マコちゃんの目がこちらを向く。 少しだけ、むっとしたような顔。 目と目がぶつかり合って、ほんの一瞬、時間が停まったような気がした。 あ、と思ったときには遅かった。 視界が陰る。 マコちゃんの顔が近付いて、無意識に息が停まった。 加速する鼓動。 俺はそれを受け止めようとしたときだった。 脳裏に、ヒズミ、そしてユッキーとのキスが蘇る。 …………それは、反射的なものだった。 俺は、マコちゃんの唇が触れるよりも先に、マコちゃんの胸を押し返した。 瞬間、空気が凍る。 「…………っ、京…………」 驚いたような顔をするマコちゃんと、それ以上に驚いたのは……俺自身だった。 …………俺、今……何した? 真っ白になる頭の中、それを理解した瞬間血の気が引いた。 |