過保護心

(佐倉純side)


「京…いや、会計の場所は分かるか?」


どうして、こいつが、敦賀真言がここに。
一瞬にして空気が張り詰めた。


「いきなり来て挨拶もねえのかよ、テメェ」

「おい」

「…っ、純」

「この人は仙道さんの友人だ、絶対手ぇ出すなよ」


赤髪と黄髪は何か言いたそうにしていたが、睨めば「はーい」と肩を竦めた。
俺だって、歓迎してるわけではない。
元々、いけ好かないやつだった。
規律だのなんだの綺麗事ばっか並べては人の話も聞こうともせず力づくで黙らせて来る風紀委員が。
そして、目の前のこいつはその風紀のトップだ。
警戒するなという方が無理な話だ。


「見ての通りここにはいねーけど……アンタ、なんでこんなところにいるんだ?停学中のはずじゃないのか」

「お前には関係ないだろう」

「こんなところまで来て一方的に尋ねて『関係ない』扱いはないんじゃないっすか、先輩」


ピクリと敦賀真言の眉間にシワが寄る。
俺の下手な敬語が癪に障ったらしい。
けれど、それも束の間。


「……あいつが、電話に出ないんだ」


ポツリと口から出たその言葉に、思わず「え?」と聞き返してしまう。


「何度掛けても出ない。電源が切れてるわけではなさそうだが、大分時間が経つから気になって…」


以前の俺ならそれくらいで血相変えてここまでやってきた敦賀真言を鼻で笑っていただろう。
けれど、人事じゃなかった。
携帯を取り出し、即座に仙道さんに電話を掛ける。
けれど、奴の言った通りいつまで経ってもコールが鳴り止むことはなかった。
それどころか、ぶつりと音を立て通話が途切れる。
……切られた。


「あんたらの部屋には」

「既に見たがいなかった」

「……ッ」


嫌な感覚が蘇る。
指先がビリビリして、息が詰まりそうな、そんな不快感が腹の奥から一気に押し寄せてきた。


「おい、純」


不意に、青髪に声を掛けられた。


「心配しなくても、仙道さんなら雪崎さんのところにいるはずだぜ」

「……雪崎?」

「あぁ、雪崎さんが責任持って見張るって言ってたし大丈夫なんじゃね?」


脳裏に雪崎が浮かぶ。
仙道さんには甘い、あの黒髪の男も俺と同じ思いを何度も味わっているはずだ。
雪崎に限ってとは思う反面、一つの疑問が横切った。

だったら、なんで仙道さんは電話に出ないんだ。


「……雪崎…雪崎拓史か?」


敦賀の言葉を無視して雪崎の連絡先を表示する。
頼む、せめて、仙道さんは無事だと、寝ていると言ってくれ。
そう強く願い、通話を繋げる。
けれど、どれ程待っても雪崎が出ることはなかった。


「…」


バクバクと、心臓が煩い。
雪崎に限って、とは思う。
けれど、嫌な予感がしてならないのだ。


「……純?」


「…………ちょっと、出てくるわ」


「へ?……って、おい、純!」


俺の考え過ぎであってほしい。
「どれだけ過保護なんだ」と笑い飛ばしてくれてもいい。
端末を仕舞い、部屋を飛び出した俺は全力疾走で廊下を突き抜ける。

向かう先は雪崎の部屋。
仙道さんのうざがる顔を見るまでは安心出来なかった。
したくなかった。



mokuji
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