最悪のお目覚め


夢現の中、不意に遠くから着信音が聞こえてくる。
携帯が鳴ってる。
着信音からして、マコちゃんだろう。
出なきゃ。と思うけど思うように体が動かなくて、再び眠りに落ちそうになるのを必死に堪える。
そうしてる内にすぐにその音がぷっつりと切れた。
急いで掛け直さないと。
そうなんとか体を起こそうとするが、体が動かない。
それどころか、


「…ん……」


唇に、何かが触れる。
唇を割るように入り込んでくる濡れた感触は紛れもなく夢ではない。


「……?」


未だ眠りが解け切れず、靄掛かった頭の中。
咥内の奥、舌に触れてくるそれが人間の舌だと気付いた瞬間、頭の中が一気に熱くなった。


「ッ、!」


薄暗い部屋の中、誰かが上にいる。 
肩を掴む手。
ソファーに押し付けられているから動けないのだ。

その事実に気付いた瞬間酷く混乱した。
咄嗟に目の前の影を突っぱねようとするも、体の方の眠りが抜け切れていないのか思うように力が入らなくて。


「ぅ…っふ、ぅ……ッ」


脈が加速する。
丹念に舌先から根本まで味わうように嬲れ、脳髄がピリピリと痺れてきた。
余計、何も考えられなくなりそうになるが、それでも、鼻腔を擽るこの香水には覚えがあった。

だからだろう、理性を取り留めることが出来たのは。

考えるよりも先に、思いっきりその舌に歯を立てる。
瞬間、ガリッと嫌な感触とともに鉄の味が咥内いっぱいに広がった。

そして、


「っ、いってぇ……」


舌が抜かれ、唇が離れた。
その代わり、聞こえてきたうめき声に今度こそ心臓が停まりそうになった。

眠る前、俺がどこにいたのか、誰といたのか、考えたらすぐにわかったが、それでも、そうじゃないと思いたかった。


「ゆっ…き…ッ」


唇を拭うそいつは、愕然とする俺を見て困ったように笑う。
いつもと変わらない、甘やかしてくれる笑顔で。


「なんだよ、お前。…起きるの早いのな」



mokuji
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