お目付け役 取り敢えず、携帯を取りに行かないと。 と、思うけど。 「ユッキー」 「ん?」 「行きたいところあんだけど」 「…駄目って言っても行くんだろ?」 「よく分かってんじゃん」 笑い返せば、ユッキーは困ったようにため息を吐く。 まじで困ったような顔。 「その代わり、俺も行くから」 「いいよ、別に」 「行くからって言ってんの、俺は」 「はいはーい、わかったよ」 別にユッキー来てもいいと思う。 正直、ちょっとだけ自分の腕に自信無くなってきたっていうのもあるけど、悔しいから言いたくない。 「仙道」 立ち上がろうとした時、何かを羽織られる。 ユッキーのパーカーだ。背中部分の悪趣味なイラストには見覚えがある。 「それ、着とけよ」 「えー、暑いよこれ」 「いいから着とけ」 それしか言わないユッキーにむっとしたが、袖を捲った時、腕に残った無数の指の痕が視界に入り、一瞬息が詰まる。 なるほどね、と思いながら「汗臭くなってもしらないよ」と俺は袖を戻す。 「ほら、ちゃんと着ろよ。だらってなってんぞ」 「着てるし。ユッキーのがでかいんだって、これ」 「いーや、仙道が細すぎるんだろ」 いつも通りのユッキーだ、と思いながら視線を上げた時、不意にこちらを見下ろしていたユッキーと目があった。 「なぁに?」 そのまま不自然に硬直するユッキーに声を掛ければ、それも一瞬、すぐにユッキーは俺から手を離す。 「そうだな……今から、どこに行くんだ?」 「職員室。凩せんせーのところ行く」 「職員室?」 「携帯をさ、拾ってきてもらってたんだよね。それでそのままだったから」 「わかった、職員室な」 そう言って俺に背中を向けたユッキーは何やら端末をいじり始める。 なんとなく気になったが、すぐにその動作も終わった。 「ほら行くぞ」 急かしてくるユッキーに手招きされ、俺はそのままユッキーと部屋を出る。 |