孕んだのは 「嫌だ…ッ、嫌だってばッ!」 力ずくで目の前の男を振り切ろうとするが、拘束され思うように動かない腕が邪魔で。 声を張り上げる。本当に止めてくれるとは思わない。けれど、それでもそう拒絶しなければ自分の中の何かが壊れてしまいそうで怖かった。 「マコちゃ…っ」 力任せに、膝上までずり下げられる下着。 羞恥なんてもの今更感じない。 それでも、得体の知れない男に脱がされるという事実にただ混乱してしまいそうになって。 マコちゃん。 呼んだところでここにはいない。 分かっていたけど、理解もしていたけど、それでも、マコちゃんが唯一俺を引き留めてくれているものだった。だから。 マコちゃん。 そう、口を開いた時。 「…ヒズミ…ッ」 自分の口から出たその名前に、目の前の男も、俺も、目を丸くした。 なんで、このタイミングであいつの名前が出てくるのか、自分でもわからなかった。 だけど。 「…なんだよ、あいつならくたばってっから来ねえよ」 笑う男はヒズミのことを知ってるようだ。 大きく腰を持ち上げられたと思えば、目の前で自分の指を舐める男に血の気が引く。 「ぃ、や…だ…ッ」 筋肉が硬直したように動かない。 やつの顔面を蹴り上げろ、そうすれば隙が出来るはずだ。 そう必死に脳は指令を送るけど、金縛りにでもあったみたいに体は動かなくて。 唾液を絡ませたやつの指にケツの穴を撫でられ、全身にサブイボが立つ。 「っ、ぅ……ッ」 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。 耳を塞ぎたい。目を潰したい。いっそのこと、なんにも考えることが出来なくなればどれほど楽なのだろうか。 ねちゃねちゃと音を立て周囲の強張った筋肉を揉み解してくるやつの指にただ血の気が引いた。 「本当、いきなりしおらしくなんのな。なに、ここ、そんなにこえーの?触られんの」 「っは、んんぅ…ッ!」 濡れ、グズグズになったそこに問答無用で捩じ込まれる複数の指。 唾液を擦りつけるように内壁を摩擦され、腰が大きく揺れる。 「っ、ぁ…っ、や、ぁあ…ッ」 声を押し殺そうとしても、器官を押しつぶすような体勢に息苦しくなって口が開いてしまう。 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。 体内を這いずる他人の存在がただただ不愉快で、必死に押し出そうとするが体が思うように動かない。 「っ、ぅっ、…くぅう……ッ」 骨すら溶かすような熱が腰に全身にと回っていく。 激しさを増す指の動きに腰が止まらなくて、いやな汗が滲む。 強制的に与えられる快感は拷問にすら等しい。 必死に奥歯を噛み締め、刺激を和らげようとすると不意に指が引き抜かれる。 飽きたのかと思ったが、そうではない。 「あいつに手ぇ出すなって言われてたけど、いいよな、少しくらい。せっかく捕まえたんだから」 あいつというのは誰なのか。 気にはなったが、一気に引き抜かれる指に中を摩擦されそんな疑問もすぐに飛んでしまう。 「っ、…は…ぁ……ッ」 異物感がなくなり、それでも散々指で擦られ掻き回された感覚は簡単になくなるわけでもなく。 体内に残った嫌な感覚をなくしたくて、自分の下腹部に手を伸ばした矢先。 男の手が、自らの下腹部に持って行かれるのを見て、凍り付いた。 スラックス越し、不自然に膨らんだそこを緩める男。 まさか、と血の気が引いて、野郎のものなんて見たくなくて、咄嗟に目を瞑って顔を逸らした。 それが、間違いだったのだ。 「いッ」 「おい、ちゃんと目ぇ開けよ」 ぎゅっと乳首を抓られ、針を刺すようなその痛みに目を見開く。 瞬間、下半身、先程まで指で嬲られたケツの穴に押し当てられる肉の感触に、息が詰まりそうになった。 「――これから俺がお前に突っ込むんだから」 薄暗い月の下。 月明かりに照らされて生々しく光る濡れた亀頭が視界に入り、壊れそうなほど鼓動が加速するのがわかった。 「ぁ……ッ」 嫌だ。そう口を開けたと同時に、力任せに挿入される性器。ゆっくりと濡れた内壁を擦るようにして徐々に奥へと挿入されるその熱に、何も考えられなくなる。 「っ、は、ぁ…ッ!あぁ……っ!」 ヒズミのじゃない、ヒズミじゃない。分かってるのに、だからこそ、意識が飛ぶくらい乱暴にしてくれた方がましだった。中途半端に残された理性が麻痺し始めて、焦らすようなその挿入にはひたすら嫌悪感しか覚えなかった。 石のように硬直した全身。 まともに息をすることすらままならなくて。 「――ッ」 奥深く、勃起した性器に腹の奥を突き上げられ、声にならない声が漏れた。 「っひ、ぅ…ッ!」 ずるっと一気に抜かれかけたと思えば、再び根本まで一気に挿入され腹の中に詰まった器官諸々がその衝撃で圧迫されるのがわかって。 力任せ、抉るような抜き刺しを繰り返され、その度に肺に溜まった空気とともに口から声が漏れてしまう。 拒むことも出来ず、ただされるがまま受け入れることしか出来なくて。 「っ、ッぁ、く、ぁあ…ッ!」 声が抑えられない。 痛いというよりも、重い。苦しくて、頭が真っ白になって、何も考えられなくて。 「…っ、は、やっべえな、これ……ッ」 腰を打ち付けられる度に肌と肌がぶつかって、下腹部が動いた。 気持ちいいとか気持ちよくないとかそんなこと俺に判断する程の理性は残されていなくて、獣じみた無造作なピストンにひたすら腹の奥を抉られる。 自分の体が自分のものではないようだった。 「っ、ま、こ…ちゃ……ッ」 名前を呼ぶ。それもすぐ、荒々しい挿入で掻き消されて。 逃げる腰を捕まえられ、何度も何度も腹の中をぐちゃぐちゃに掻き回される。 押し出そうと下半身に力を入れれば逆効果だったようだ。 「っ、は……っ」 喉仏を上下させ、男が固唾を飲んだ時。 体の中、深く挿入されたままのそれが大きく脈を打つのがわかった。 抵抗する術も残されていない今、それがなんの予兆かわかったところでどうすることも出来なくて。 「お近づきの記念だよ、ほらッ!しっかり飲み干せよ!」 力を入れることすらままならない下半身、深く捩じ込まれた腹の最奥に直接注がれる大量の熱に堪らず目を見開いた。 「っ、ぁ、ああぁ…ッ」 他人の熱で満たされていく腹に、吐き気にも似たなにかが迫り上がってくる。 ぞくぞくと背筋が痺れ、脳髄が蕩けるような、そんな熱に目の前が真っ白になって。 「…は…っ」 この感覚には、見覚えがあった。 焼けるような熱に内部からぐずぐずに溶かされるような、そんな感覚。 全身から力が抜け落ちる。 目の前の景色が徐々に薄れる中、不意に、遠くから声が聞こえてきた。 「………う……仙道……っ!」 ああ、この声は、確か。 ……誰だっけ。 なんて、思いながら俺は体内に熱を孕んだまま、とうとう意識を手放した。 いっそのことそのまま目を覚ませずにいられればどれだけよかったのだろうか。 |