隠したかったもの 『ヒズミに襲撃され、その前後関わりある記憶があやふやになっている』 そう、俺に言ったのはユッキーだった。 難しい話を聞くのが嫌いな俺の代わりに病院の先生の話を聞いてくれたユッキーはそう続けた。 それでも、ユッキーたちのことは覚えてるし、ヒズミの笑顔だって脳味噌に刻み付けられてる。 確かにところどころ抜け落ちてるような気がしないでもないが、自分でもどこからどこまでがなくなっているのか分からなくて。 それ以上に、俺は出来ることならヒズミが映り込んだ全ての記憶を封じたかった。 中途半端に飛んでいった俺の記憶になにがあったのか知らないし、一生そのまま埋もれてくれとも思っていた。 だけど。 真っ暗になった頭の中で、何かが弾けた。 「…………ッ」 うるさいくらいの鼓動で、現実に引き戻される。 尋常なまでの汗が、額から顎へと流れ落ちる。 「っ、あは……ッ」 思わず、乾いた笑いが口から零れた。 今、一瞬だけど確かに、なにかを思い出した。 それは恐らく俺が一番封じたかったことなのだろう。 笑う俺に、男は目だけでこちらを見る。 その上目遣いが、いつの日かの記憶と重なった。 『キョウは本当胸弄られるの好きだよな』 楽しそうなヒズミの笑い声。 あの妙ちくりんなコスプレをしていないヒズミからして恐らく、あの時のだろう。 問題は、そんなヒズミとの記憶に対して、不快感を覚えてないことだった。 「……あんた、今別のこと考えてただろ」 不意に顔を上げた男がつまらなさそうに眉を寄せる。 何も答える気になれなくて、無視しているとその男は苛ついたように舌打ちをする。 そして、 「っ、ちょっと、やだ、やめてよ!」 下半身を弄られ、乱暴にベルトを引き抜かれる。 下着ごと剥ぎ取られそうになり、流石に驚いたがそれ以上にバクバクと煩いまでに反応してる心臓がわけわからなくて。 自分の中、肥大する得体の知れないなにかが興奮だということがなによりも恐ろしかった。 |