捕捉 やばい、というよりも、ぶん殴られた脳味噌では何も考えることが出来なくて。 「……ッ」 短い間、どうやら飛んでいたようでハッと気付いた時には辺りは先ほどまでの草むらの中ではなくて。 背中に当たる硬いコンクリの感触。 目の前にはさっきの男と、欠けた月。 ここがまだ校舎裏だというのはすぐに分かった。 「ようやく起きたのかよ。寝過ぎなんだよ、あんた」 「このまま犯してやろうかと思った」と悪びれた様子もなく爽やかに笑う男。 その手が制服に伸びてきて、咄嗟に振り払おうとするが。 「…あれ?」 腕が、動かない。 「ああ、暇だったからあんたの腕、縛らせてもらったから」 「……は……っ?」 「引っ掻かれたりでもしたらたまんねえしな」 言いながら、シャツのボタンを剥ぎ取られる。 生暖かい独特の空気にも関わらず、酷い寒気が込み上げてきて。 「……っ」 触るな、離れろ。そう、怒鳴ろうとしても、上半身に直接触れてくる他人の手の感触に全身が竦んで。 息が出来なくて。 「…へえ、まじで大人しくなんのな」 すぐ側で男の声がして、驚いた矢先。 すぐ目前まで迫ったやつの顔に心臓が破裂するように痛む。 咄嗟に顔を逸らすけど、もう片方の手に無理やり顎を掴まれ、強引に唇を塞がれた。 「ふ、ぅゔ……ッ」 薄い膜越しに流れ込んでくる他人の熱に、目の前が、頭の中が、真っ暗になる。 全身が石みたいに固まって、抵抗することなんて考えることも出来なくて。 嫌悪感にも似た、それ以上のなにかが全神経を駆け巡る。 「ッん、ぅぐ…ッ」 ヒズミではないヒズミとは違うヒズミはいない。そう必死に自分に言い聞かせても、あの時の屈辱が、恐怖が、生生しく蘇って。 噛み付くように貪られ、体が、震える。 体の輪郭を確かめるように触れるその手から逃れることは出来なくて。 どこか、ふわふわと夢を見ているみたいだった。 それも、悪い夢を。 |