返り討ちにご用心

「あー、やっぱさみーわ。夜は」


ひんやりとした外気に震え、慌てて手を擦り合わせてみるもそんな簡単に暖まれば苦労しないわけで。
上着もっと着とけばよかった、なんて思いながら俺ば斜め後ろからついて来ているであろうよーへいに問い掛ける。


「そういやさ、なんでよーへい君こんな時間に学校にいたわけ?」


さっきから気になっていたことを思い切って尋ねてみる俺だが、一向に返事が返ってこない。
無視かよ、とちょっとだけ仲良く慣れたかなと思っていた俺は微妙にショック受けつつ「よーへい君」と振り返る。
そして、固まった。


「……よーへい君?」


さっきから着いてきてると思っていたよーへい君の姿はどこにもなかった。
それどころか、人の気配すら。

あれ、まさか、よーへい君……迷子?
大人しいし喋んないから油断していた。
でも、いつから。なんて考えていると、不意に校舎裏の草むらからがさりと音が聞こえた。


「おーい、よーへいく…」


なんだ、そんなところにいたのか。
すぐ再会できたことに安堵しながら、俺は草むらに近付いた。
そして、長い草を掻き分けたところで『よーへい君がこんなところにいるのっておかしくね?』というごく自然な疑問が浮かび上がる。
そう静止した、次の瞬間だった。

背後で影が動き、咄嗟に振り返ろうとしたとき。
棒状の何かが、こちらに向かって思いっきり振り被るのが見えた。
それがなんなのか、と考えるよりも先に腰を落とし屈む。


「っうお、まじでっ?」


どこか緊張感のない男の声とともに、頭上を通り過ぎていく棒状のそれ。
それはどうやらバットのようで。
咄嗟に体制を取り直し、バットを握り締める相手の手を蹴り上げる。


「チ…ッ!」


男の手からバットが転がり落ちる。
それを軽く蹴り上げ、手に取った。
ずっしりとした重量感は懐かしく、やけに馴染む。


「…あのさぁ、いきなりそれはちょっと失礼じゃないのー?」


一人のところを背後からなんて、俺を本気で狙うならせめてもっと人数連れてくるべきではないのだろうか。
舐められてるのだろうか、なんて少し傷付いている自分がなんだか面白くない。
むしゃくしゃしたから久し振りに素振りの練習でもしようかと丸腰の男に近付いたその時だった。


「……仙道……!」


聞こえてきた声は、探していたよーへい君の声で。


「あ?」


声のする方向を振り向けば、そこには少しだけ焦ったようなよーへい君が立っていて。
それだけならよかった。別にこんなところ見られたところで痛くも痒くもないし。
だけど、そんなようへー君の背後。
もう一人、鉄パイプを構えたジャージ姿の男が立っていて。
その男に気づいていないよーへい君に、俺は、全身の血の気が引いていくのを覚えた。



mokuji
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