脳筋共の策略

「それで?なに?」

「そう急くなよ。…ほら」


テーブルの上、ぱさりと書類が置かれる。
それに視線だけを向ける俺。
その書類には、見覚えのある顔の生徒の写真が貼られていた。

短めの明るい茶髪に人懐っこそうな笑みを浮かべたその生徒に、俺は目を見開く。


「…こいつ」


あのときは暗闇だったからよく見えなかったが、それでも、あのときいきなりキスしてきたやつの顔はぼんやりながらも痛いくらい刻み付けられていた。
書類は、あのときの生徒のもののようだ。


「山岸拓哉。すげー運動神経がよくてそれだけで特待で入ったやつだってよ」

「…ふぅん」


通りで逃げ足も速かったわけだ。
あまり思い出したくないので、俺はすぐに写真から目を逸らす。


「それと、ヒズミと仲いいらしい」

「…ヒズミ?」


予想していなかった名前が出て、全身に緊張が走る。
顔を強ばらせる俺に、僅かに純が唇を噛んだ。
そして、なにかを決意したかのように目を開いた。


「行動に出られる前に釘を打ちます。…止めてもやめませんからね」


目を据わらせた純の言葉に、目の前が段々と薄暗くなっていく。
そんなの、ダメだ、ダメだ。だって、そんなことしたらヒズミが。
…また、ヒズミが。


「…それだけはダメだ」

「仙道」

「ヒズミには関わらないで。お願いだから」 


そう発する自分の声は酷く震えてて、情けない。そうわかってても、体の震えは止まりなくて。


「仙道、落ち着けって」


ユッキーに肩を撫でられる。
触れる箇所から流れ込んでくる体温はいつもなら心地良いが、今だけは、不安を掻き立てられるばかりで。


「そんな優しくしても許さないから」

「あのな、純はともかく、俺がなんの考えもなしに動くと思うか?」

「……思う」

「あーそうかよ、くそ、信用ねえなぁ」


茶化すように笑うユッキー。
ネタにされた純はなにか言いたそうにユッキーを睨んでいたが見事に無視していた。


「お前が嫌がるのもわかってるよ。全部。それでもわざわざ言ったのは仙道、あんたに頼みがあるからだ」

「…俺に?」


やけに勿体振るユッキーに聞き返せば、ご希望通りの反応だったらしい。ユッキーは「ああ」と満足げに頷いた。


「俺を体育委員長にしてくれ」


またなにか言い出したぞこのユッキーは。

mokuji
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