○○な子ほど

「もう話は終わり?」

「相手したくないならさっさと帰ってもいいんだぞ、別に。別に、俺はお前を引き止めていない」



どうしてこうもこいつは、俺の苛つくポイントを的確に突いて来るんだ。
まるで俺が好き好んでかいちょーと一緒にいるかのような言い方に頭にきたが、それもかいちょーの狙いなのだろう。誘導するような言葉遣いは、好きになれない。きっと、ずっと。


「あ、そ。ならいいや。俺戻るから、かいちょーもさっさと寝たら?明日の会議、ちゃんと出なよ」


それじゃ、とイラつきを紛らすように託しまくった俺は言いたいことだけを言ってそのまま部屋へと戻ろうとした。
そのとき、肩を掴まれた。
今度はかいちょーに止められたわけだけど。


「なに………」


そう、言いながら振り返った矢先。
すぐ目先に迫るかいちょーにぎょっとしたのも束の間、俺が身を引くよりも先に、半ば強引に唇が、触れ合った。


「……っ」


逃げようとすれば俺の肩を掴む手に力が籠り、薄膜から流れ込んでくるかいちょーの体温に全身が硬直し、一瞬、俺は動けなくなる。

なんでそうなるんだ。
真っ白になった頭の中、嫌な記憶とともに数日前の感触がフラッシュバックを起こし、さっと血の気が引く。
微かに香る淡いこの香りは、華の匂いだろうか。
全六感から感じられるかいちょーの存在に、頭の中の警報は更にけたたましく鳴り響く。
防衛本能が働き、反射的に動いた体はかいちょーの首を掴んだ。

そのまま引き剥がそうと指先に力を込めるけど、かいちょーは離れるどころか俺の唇を強引に舌で割ってきて。
瞬間、咥内へと流れ込んでくるぬるい炭酸飲料に俺は更に青褪める。


「っ、ゃ……ッ」


びっくりして、全身の力を振り絞って目の前のかいちょーの肩をぶん殴ったとき、ようやくかいちょーの唇が離れる。
その代わり、零れた炭酸飲料が服を汚した。
それはどうでもよかった。
ただ、咥内と周囲に広がる炭酸飲料の甘ったるいそれは胸糞悪かった。


「悪かったな。これ、返す」


今度は手を握られ、何事かと身を竦めればかいちょーはそういって缶を握らせてくる。
突然の出来事にまだ頭が驚いたまま麻痺していて、その場から動けない俺を残してかいちょーは鼻歌交じりにその場を後にした。

一人、残された俺は呆然と手の中の空の缶を見詰めた。

mokuji
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