思わぬ遭遇

喉の乾きを潤すため、部屋を出た俺はそのまま階に設置してある自販機へと向かう。
ユッキーたちに耳が痛くなるくらい一人で出歩くなと言われたが、大人しく言いなりになる気はない。
俺を大人しくさせたいんなら冷蔵庫に常にジュース補充しとけっての。
なんてこの場にはいない連中の怒った顔を思い浮かべ、自販機の前までやってきた。

そして、ジュースを選ぼうとした時。
横から伸びてきた手が、俺の目の前を通り過ぎてボタンを押した。

唖然とする俺を無視し、がこん、と音を立て落ちてきたのは黒いラベルの炭酸飲料。
背後を振り返れば、そこには個人的に見たくない顔ナンバー2がいた。


「ごちそーさん」


そういって、屈んで炭酸飲料を手に取ったかいちょーこと玉城由良はそのままその場を立ち去ろうとする。
俺の金で勝手に買った炭酸飲料を手に。


「ちょっとさぁ、待ってよ、ねえ」


考えるよりも先に、体が動いていた。
かいちょーの肩を掴み、強引に引き止める。
思いの外あっさりとかいちょーは立ち止まった。

そして。


「どうした?」

「どうしたじゃねーし、それ、俺のなんすけど」

「だから、ごちそーさんって」

「いいわけねえだろーが」


と、考えるよりも先に体が動いた。
思いっきりぶん殴ってやろうと拳を作ったが、そこで俺は思い留まる。
だってこいつ、避けようとも庇おうともしないし。するつもりもないのだろう。


「どうした?やんねーのか」

「…………アホらし」


それだけを呟き、俺はかいちょーから手を離した。
安易に考えが読めてしまったのだ。かいちょーの、嫌な考えが。


「へえ、随分と大人しくなったもんだな。荒れてるもんだと聞いてたんだが」


踵を翻し、さっさとその場を立ち去ろうとした時。
背後から掛けられるかいちょーの言葉に、立ち止まる。
かつりと、靴の音が聞こえる。
一歩、また一歩と歩み寄ってくるかいちょーを睨んだ。


「なぁに?マコちゃんの次は俺なわけ?」

「その言い方は人聞きがわりぃだろ。元よりあいつの停学に俺は関わっていない」


「あいつらが勝手にやり合っただけだろ」と薄ら笑いを浮かべるかいちょーに胸の奥からむかむかとなにかが込み上げてくる。
うそつき、と呟けばかいちょーは一層楽しそうに笑った。


「寧ろ、俺からしてみればお前のせいにしか見えないんだけどな」


目の前、ぷしっと音を立て缶を開けたかいちょーは言いながら一口、中を喉に流し込んだ。
甘い炭酸飲料の匂いが辺りに充満する。


「だったら……なに?」

「そんなこえー顔すんなよ。別に喧嘩しにきたんじゃねえから」


それも、嘘だろう。でなければ、ここまでこうも人の神経を逆撫でするような器用な真似、出来ない。

無言で目の前の男をじっと睨み返せば、かいちょーは肩を竦めてみせた。
そして、


「…………その目、変わってねえな」


懐かしそうに呟くその言葉に、俺は違和感を抱いた。
まるで、前に、それも今よりもずっと前に会ったかのような物言いをするかいちょーに。

mokuji
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