自分だけじゃない



というわけでユッキーはどっか行った。
他の風紀委員たちもいなくなって、いつの間にかに俺となっちゃんだけがそこにいた。


「……」

「……」

「……」


休み時間、風紀室。
下手に出歩かれるぐらいならここにいろと連れて来られたはいいが、あまりにもやることが無い。

マコちゃんが座ってるらしい委員長椅子に座ろうとしたらなっちゃんに怒られ、仕方なく普通のソファーに腰を掛けマコちゃんが働いている姿を思い描いてみたが、寂しさと虚しさとマコちゃんへの思いが募るばかりでやめた。
元々お喋りな方ではないけど、黙りこけるのにも流石に飽きてきた。
純でも呼び出そうかなー。
なんて思いながら携帯を操作したが、昨夜、押し倒された時の体に感じた重さが蘇り、俺は手を止めた。

…やめとくか。
多分、純だって嫌だろうし。

人の気持ちとかそういうの考えるのは苦手なんだけど、あのとき、薄暗い中見えた引き攣った純の顔を思い出すとなんだか気が重くなる。
気を紛らすように、俺は向かい側でなにやら書類に記入してるなっちゃんをちらりと見た。


「ねえ、暇なんだけど」

「ああ?知るかよ。勉強でもしろ」

「なにそれー。絶対君モテないでしょ」

「別にモテなくて結構」

「…つまんなーい」

「……」


あ、無視ですか。そうですか。そう来るんですか。あーあー。マコちゃんにちくっとこ、なっちゃんが無視するってマコちゃんにちくっとこ。
なんて思いながら、こちらを見ようともしないなっちゃんをぼんやりと眺める。


「ねえ、マコちゃんちってどこにあるか知ってる?」


ふと、浮かび上がった疑問を口にしてみれば、先程まで手元の書類を睨んでいた鋭い双眼がこちらを睨んだ。


「は?…なんでだよ」

「いやー?別にぃ」

「お前、まさか学校抜け出して委員長に会いに行こうなんて考えてねえだろうな」


あ、その手があったか。と手を叩けば、「おい」と更にやつの目付きが凶悪なことになる。
うわーこわーいこれじゃモテないわけだ。ちーちゃんの気持ち悪いくらいにこやかな笑顔もあれだが、こいつの愛想の悪さも問題だ。ちーちゃんとなっちゃんを二で割って足したらましなことになるだろうが。


「別に関係ないじゃん」

「ある!」


即答。


「とにかく、委員長が帰ってくるまで勝手な真似は避けさせてもらうからな。お前がなにかやらかす度に風紀が乱れて仕方ないんだよ!」


ぴりぴりとした雰囲気を纏わりつく付かせたなっちゃんはそうぎゃんぎゃんと噛み付いてくる。
いつもならそのお陰で君たちのお仕事があるんでしょと言い返しているところだろうが、正直、俺が会計になってから身の回りで起こる騒動の原因が大体自分だと知ってしまっている今、なっちゃんの言葉は痛かった。
そうだ、俺のせいでマコちゃんは停学受けたし風紀委員長辞めさせられるかもしれない。
あんだけ頑張っているマコちゃんが、俺のせいで。
そう思うと、胸の奥がぎゅーって痛くなって、じわりとなにかが込み上げてくる。


「……」

「っ?!なっ、な、なな…なんで泣くんだよそこで…!」

「…泣いてないし、君の声が耳障りで拒絶反応出ただけだし」


ぽろぽろと涙が零れてしまう前に、慌てて目元を袖で拭った。
なっちゃんの前で泣いてしまうのは、二回目だろうか。
ホント、なんでこうもこいつには見られたくないところばかり見られてしまうのだろうか。
だから舐められてるのだろう。
わかっていたが、マコちゃんへの申し訳なさで頭がいっぱいになって、それどころじゃなくて。
拭っても拭っても溢れてくるそれに「うー」って唸ったとき。


「〜〜っ」


声にならない声が聞こえ、次の瞬間がしっと頭部を鷲掴みされた。
大きな手。そのままグジャグジャと髪を掻き回される。
何事かと目を丸くし、顔を上げれば、ソファーから腰を浮かせ、こちらへと手を伸ばしていたなっちゃんと目があった。
ばつが悪そうな顔のなっちゃんは、いつもより険しい表情のまま目を逸らし、俺から手を離した。


「…い、言い過ぎた。…悪い」


なっちゃんに謝られた。
そう、認識するのに時間が掛かった。


「正直、俺もどうしたらいいのかわかんねえんだよ。委員長は過保護過ぎだと思うけど、なにが起こるのかわかんねえのはまじだし」

「……うん」

「せめて、三日。学校内が落ち着くまでは大人しくしてくれ。…頼む」


初めて聞く、切羽詰まったなっちゃんの声。
信用していたマコちゃんが起こした暴力沙汰に、なっちゃんもなっちゃんで戸惑っているのだろう。

マコちゃんがいなくなって困っているのは俺だけではない。
目の前のこの無愛想でキレやすいなっちゃんも、俺と同じようにマコちゃんのことを心配しているのだ。


「…わかった」

「…悪いな」

「こっちこそごめんね、なっちゃん」


なっちゃんはずっと寂しさを隠して、いない委員長に従っていると思ったら、そんななっちゃん相手に駄々を捏ねる気にはならなくて。
そう呟けば、なっちゃんはこちらを睨み付けた。
え、なんて睨むの。この人こわい。


「なっちゃんはやめろ」


やっぱこいつモテないだろうな。



mokuji
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