首輪は自分で付けれない

いつも後ろから眺めていた肩は掴んでみれば頼りないくらい薄く、それでも信じられないくらいの馬鹿力だということを身を知っている俺は手首を抑え、腕を封じる。
そこで、ようやく仙道さんは状況を飲み込んだようだ。


「なに、」


掠れた声。
細められた瞳が揺れ、仙道さんが僅かながら動揺しているのがわかった。
胸が締めつけられる。
だけど、ここで退いたら、本当に仙道さんから見てもらえないような気がして。


「なんですか?俺は犬なんですよね」

「ちょっ、待って、純」

「犬相手に、そんなにビビらなくてもいいでしょう。ただ、じゃれ付いてんですから」


声に出してみると、酷く冷たく響く。
腹部に手を伸ばし、服の裾を乱暴にたくし上げようと掴めば、大きく仙道の体が跳ねた。


「っ、じゅん、やめて…っ」


今度ははっきりと聞こえた、仙道さんの震えた声。
余裕をなくし、切羽詰まったような縋る仙道さんの声を聞いたのは初めてではない。
あの日、焼けるような激痛の中、仙道さんがいた部屋から聞こえた声。
それが今、自分に対して発せられていると思ったら頭に登っていた血がサアッと引き、急激に高揚した心が冷めていくのがわかった。


「……ッ」


別に、この状態の仙道さんをこの場で撤回してくれるまで犯すのも難しくはない。以前、総長のままの仙道さんだったらともかくだ。
だけど、仙道さんの傷口を広げてまで撤回してもらうのも、違う。違う。仙道さんのこんな顔が見たいわけではない。だって。俺は。仙道さんの。



「あんたにとって可愛い犬でも、俺はいつでもその喉に噛み付くことくらい出来るんですよ」


仙道さんから手を離す。
茶化すつもりで微笑もうとしたけど顔の筋肉が思うように動かず、きっと俺の顔は酷いことになるだろう。
だけど、それ以上に。


「…」


殴られてもいい。罵られてもいい。怒られてもいい。そう思って伺った仙道さんはなにもしてこないし言わない。
それが怖くなって、我慢できなかった。


「…すいません、やっぱ帰って寝ます」


ベッドから降り、俺は足早に仙道さんの部屋を後にした。
部屋を出ていこうとしたとき、仙道さんに声掛けられたがそれを振り払って俺は出ていく。
ずきずきずきと足首が痛んだ。
廊下は既に真っ暗で、酷く静まり返っている。


「あーっ、くそ、もうっ!」


こんなはずじゃなかったのに。
こんなことしたかったんじゃないのに。
なんで、怒ってくれなかったんだ。嫌がって拒絶してくれた方がましだ。それすらにも値しないということだろうか。
そしてなにより、普通の相手ならともかく、仙道さんのトラウマを知っておきながらあんな真似をした自分がひたすらムカツイて、こみ上げてくる自己嫌悪と後悔の念にいたたまれなくなった俺は頭を冷やすために寮の外へと走り出した。


mokuji
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