誘致

(仙道京視点)


イエローエッジ。
耳に馴染んでいたその名前は今はただ懐かしい。
誰が言い出したのか分からないが、俺とその周囲の連中はまとめてそう呼ばれていた。

イエローエッジには近付くな。
男はボコられ身ぐるみ剥がされ無一文にされ、女はヤリ回されるからだとか。
馬鹿馬鹿しい、根拠のない噂話だ。とは言わない。
実際、チームの奴らの中にはそんなことをするやつらもいたらしいし。
取り敢えず馬鹿やりたかった俺はそんな連中のことを気にするわけでもなく、ただ自分の好きなように生きていた。

やられたらやり返して応報合戦の繰り返しの日々。
名前と拳が汚れていくばかりで、何一つ満たされない。
満たされたとしても一時的な興奮だ。
時間が経てばまたすぐに欲求不満になる。

結局、その欲求を完全に満たすこともなく俺はイエローエッジを解散させた。
副総長だった純もユッキーも降り、逃げてきた俺についてきたが散り散りになった他の幹部たちが今どうなっているのかもわからない。
否、俺はもう関わらないように逃げたのだ。
知る権利もない。

だけど、当時、総長だとかヘッドだとか持て囃されていた頃よりも今、生徒会会計だとかクソ地味な役職に就いてマコちゃんをおもいながらシコシコ電卓打ってる方が遥かに充実しているのも事実なわけで。
………それも、最近までのことだけど。





「また明日、朝迎えに来るからな。俺達の寿命を縮ませたくないのなら、大人しく待ってろよ」

「はいはい、早く部屋戻りなよ」

「仙道、お前な…」


学生寮、自室前。
ぞろぞろとついてきた護衛たちにひらひらと手を振れば、ユッキーは眉間にシワを寄せる。


「雪崎さん、消灯まで時間ないですよ」


そんなユッキーを宥めるように耳打ちする青に、相変わらず不機嫌なままのユッキーは舌打ちをする。
そして、諦めたように大きな溜息をついた。


「じゃあな」


扉の前、踵を返したユッキーたちはそのまま俺の部屋の前を後にする。
その後ろ、少し遅れてついていこうとしていた純の肩をポンポンと叩き、引き止めた。


「純」


何事かと目を丸くする純の腕を引っ張り、俺は他のやつらに気付かれないようにそのまま純を自室へと招き入れる。

mokuji
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