ペテン師の戯言

「…リコール?マコちゃんが?なんで」


ようやく口にした言葉は僅かに震えた。
動揺か。
いや、寧ろこれは……


「風紀委員長である人間が秩序と風紀を乱したんです。委員長に恨みを持っている生徒は少なくないですからね、ここぞとばかりに喚いてるみたいですよ」


ちーちゃんの言葉に、紙を持つ手に力がこもる。
ぐしゃりと音を立て、握り潰れる署名用紙にちーちゃんがぎょっとした。
 

「ちょっと、何してるんですか」

「なにそれ、マコちゃんはなにも悪くないのに」

「貴方の気持ちもわかりますが、そんなことをしたところでゴミが増えるだけですよ」


フォローする気があるのかないのか、慌てたちーちゃんに署名用紙を取り上げられた。
本当はビリビリに破ってしまいたいところだが、ちーちゃんの言葉に奪い返すのはやめた。
確かに、署名用紙なんて意味がない。
こんな用紙に名前を書くような連中を根こそぎ潰さない限り。
押し黙る俺に、ちーちゃんは僅かに目を細めた。
そして、口元を緩める。


「しかしまあ、僕としては委員長がこのまま消えてくれた方が嬉しいんですけどね」


何気なく、いつもと変わらない調子で続けるちーちゃんの一言に全身が強張るのを感じた。
腹の底から込み上げてくる怒りを堪えながら俺はちーちゃんに視線をむける。


「ちーちゃんでも、そんなつまらない冗談言うなら許さないよ?」


驚くほど低くなる自分の声に、楽しそうにちーちゃんは笑った。
そして、


「残念ながら、あながち冗談というわけでもないんですよね」


不意に、細く骨張ったちーちゃんの手が伸びてくる。
そのまま髪を触られそうになった時、反射的に俺はその手の甲をたたき落とした。


「おや、痛いじゃないですか」

「…痛くしたの」

「相変わらず素っ気ないですねぇ、仙道は」


そういうちーちゃんは寧ろどこか楽しそうで、赤くなった手の甲を摩って、へらりと笑う。
そして、そのままゆっくりと視線を俺に流した。


「ですが、あまり僕以外の人間の前でそういう隙は見せない方がいいですよ。貴方も敵は少なくないんですから」

「ちーちゃんも夜部屋の戸締り気をつけなよ。窓から包丁飛んでくるかもしれねえし」


僕以外、という言葉に引っかかったが軟派なちーちゃんのことだ、大して意味はないのだろう。
俺の言葉を冗談と受け取ったちーちゃんは「それは怖いですね。気をつけます」と笑う。
正直、全部が冗談というわけではなかった。
相手がちーちゃんじゃなければ、いや、ちーちゃんでも、マコちゃんの敵になるのなら俺は喜んで包丁でもなんでも振り回すかもしれない。
それでも、ドM抉らせたちーちゃんは大喜びしそうなところが薄気味悪いが。

mokuji
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