隔離病室

(日桷和馬視点)


「っくそっ!離せよッ!おい!もう俺大丈夫って言ってんだろ!」


どれだけ叫んでも返事は帰ってこない。
手入れが行き届いた小綺麗な白い天井がただただ腹立って、ベッドに縛り付けられた体を動かすがベッドは音を立てて軋むばかりで、四肢を固定するベルトはビクともしない。
ああ、くそ、こうしている時間すら惜しい。
俺はこんなところでじっとしてる場合じゃないんだ。
早く、あいつを潰さなければ。
あんなやつがキョウと同じ場所にいるというだけて生きた心地がしない。
焼けたようにひりつく腹の痛みに顔を歪め、思うように動かない体に俺は舌打ちをした。

そのときだ。
病室の扉が開き、見知った顔が2つ入ってくる。


「おーおー暴れとる暴れとる。さっすが和真、元気だな」

「拓哉っ!」


同じクラスメートの拓哉は相変わらず飄々とした態度でベッドへと歩み寄る。
部活帰りだろうか。
ジャージ姿のままの拓哉の手にはどっかのコンビニの袋が下がっていて。


「なんだよ、お前ら見舞いに来てくれたのか?!」

「どんだけくたばってんのか気になって来たんだけどな。残念だったな、侑士。逆効果だったみたいだ」


そう悪びれた様子もなく続ける拓哉の背後、開きっぱなしの扉から長身の影が現れる。


「侑士!」

「……」


のそりと病室へと踏み入れるそいつ、もとい侑士はこの学校に来てからできた俺の友達だ。
いつもヘラヘラしててどっちかっていうと社交的な拓哉に比べて、すっげー無愛想だし目つき悪いし声低いし口も悪くてすぐ子供に泣かれるけど、いいやつだ。
変なちっちゃいのに絡まれていたとき「目障りなんだよ」とかいってちっちゃいの追い払ってくれたし!


「なんだよ、お前らそんなこといって。その袋、お見舞い品だろ?」

「んなわけねーじゃん。これ、俺のね」

「なんだよそれ!」

「和真の大好きなお菓子とゲーム」

「やっぱ俺のじゃん!」

「お前のものは俺のものってか」


「ほらよ」と笑い、拓哉は袋をこちらへ投げて渡してくる。
渡してくれるのはありがたいけど、あいにく手が使えないので食べられない。
だけど、


「ありがとな、拓哉!侑士!」


そう頬を緩ませれば、さっきから黙りこくって病室を眺めていた侑士がようやく俺を見る。 


「入院、いつまでだよ」

「んー…一ヶ月は絶対安静って言われてんだけど、俺は今すぐにもここを出たいっていうか」


一ヶ月もこんなところに閉じ込められていたら体が足の方から腐ってしまいそうだ。
ごにょごにょと口籠る俺に、侑士は「馬鹿じゃねえの」と吐き捨てる。
どうやらこいつもナースたちと同じ『怪我人は絶対安静』とかいう口なのだろうか。
仲間だと思っていただけにそっけない侑士に凹む俺だったが、ふと閃きもやもやはどっか行った。


「あ、そうだ!なあ、二人ともちょっと手伝ってくんね?」

「や、病院抜け出すとかそういうのはパスな。お前一応重症なんだから」

「…第一、お前停学中だから抜け出しても学校には戻れないぞ」


どうやら二人にはお見通しだったようだ。
「なんとかなる!」と返せば、拓哉はおかしそうに笑った。


「和真の場合まじで何とかしそうだからな。笑えねえ」

「だって、こうしてる間にもキョウは寂しい思いをしてんだぞ?!せめて、ひと目だけでも…」

「寂しいのはお前だろ」


笑みを浮かべたまま、きっぱりと切り捨てる拓哉に俺は言葉を詰まらせた。
そんな俺に、拓哉は爽やかに笑いながら隣にいた侑士に視線を移した。


「大丈夫だって、キョウのことは。な」


同意を求めるような拓哉の言葉に、侑士派堅苦しい表情のまま「あぁ」と頷く。
そして、ゆっくりと目を開いた。


「あいつなら、お前の代わりに俺達が守ってやる」


淡々とした、冷たい声。
しっかりとした口調だったけど、何故だろうか。
親友二人の言葉に安堵する反面、胸がざわついた。

mokuji
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