誰がために 血の気が多く、昔からよく喧嘩売られてはまとめて買い上げるという律儀な性格をしている純は今回も二人分お買い上げのようだ。 体育委員長の胸倉を掴む純に、慌てて「純」と声をかけるが止まらない。 それどころか、 「なんだよ、お前もそいつの犬なんだろ?いいよなぁ、満足させるだけで可愛がってもらえるんだか……げふっ!」 にやにやと笑う体育委員長が言い終わるより先に、体育委員長の顎に純のアッパーがキマる方が早かった。 強引に力で黙らせる純にぎょっとした俺は慌ててその背中に駆け寄る。 「ちょっと、純っ」 ゴタついている今、揉め事起こすのはまずい。 なんとか止めようと手を伸ばしたが、ユッキーに肩を掴まれ止められた。 どういうつもりかと振り向けば、ユッキーは『好きにさせとけ』と目で語る。 ユッキー自身も、殴り掛かるのを我慢してる気配すらあった。 「っ、んぐぅ!」 「仙道さんを汚すきったねぇ目はここか?あぁ!?」 「いっ、てぇええっ!」 「おい、やめろ馬鹿っ!なにやってんだよ!やめろってば!」 「おー!純やっちまえー!」 「役職持ちだからってイキってんじゃねえぞ!」 廊下に響く悲鳴にそれを加勢するチームのやつらの野次や罵声。 騒ぎを聞きつけ、何事かと廊下へ顔を出す役員たち。 なんだこの無法地帯は。 元々柄のよくない校風なのは確かなのだが、揉め事があればすぐに風紀委員が収めていた。 なのに、風紀委員も人出が足りないということか。 騒ぎが騒ぎを呼び、たったひとつの茶々からやたら大事になっていくそれに俺は固まった 純、そいつもう白目剥いてる。 「仙道」 呆然としていると、先へ行こうとユッキーが俺の肩を叩いた。 純たちを置いて逃げるつもりだ。 「ユッキー……」 「言っただろ、お前の手は煩わせないって」 「どうすんの、これ。純たち置いてくつもり?」 「ほっといてもあいつらなら大丈夫だろ。それよりも、俺はここにお前が長居してる方が厄介だと思うけど」 「…」 「行くぞ。風紀に捕まったら面倒だ」 促され、俺は渋々と野次を掻き分けるようにその場を後にする。 その間も向けられた複数の視線が逸らされることはなかったが、それもいつしか消えてわからなくなる。 |