思案

「とにかく、色々言ってくる奴が出てくるだろう。そうしたら、すぐに俺たちに言ってくれ」


具体的にどう対処するかは口に出さないか、ユッキーから滲み出る薄暗い殺気に大体は予想付いた。
一頻り気持ちを吐き出し、落ち着きを取り戻したユッキーは俺を真っ直ぐ見据える。


「余計な気だけは起こすなよ」

「……」


俺はなにも答えなかった。
余計な気とはなんのことだろう。
俺がヒズミに殴り込む?それとも諦めて自害?
分からない。


「おい、まだかよ!」


そのときだ。
遠くから純の怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやら一向に現れない俺達に焦れたようだ。


「ったく、あいつまじで気ぃ短いな……」


ユッキーは舌打ちし、バツが悪そうに俺を見た。


「仙道、そろそろ戻るか」

「うん…戻る」


頷き返せば、ユッキーは手をこちらに差し出してくる。
握れ、ということなのだろう。
わかったが、体が動かない。
出された手を取ることが出来ず、そのまま押し黙る俺に寂しそうな顔をしたユッキーは手を引っ込めた。


「ごめんね、ユッキー」


ユッキーのことを信じていないわけではない。
今はただ、簡単にユッキーに甘えてはいけないような気がしてならないのだ。
ここでユッキーや他のやつらに頼ったら、なけなしの自尊心が消え去ってしまいそうで。
ユッキーの顔を見るのが辛くて俯いたとき、頭にポンと手を置かれた


「そういうときは『アリガトウゴザイマス』だろ」


そう、わしわしと俺の髪を掻き乱したユッキーはそのまま俺の前を行くように歩き出した。
特攻隊長の背中はひどく頼もしい。
この場にはいないマコちゃんの後ろ姿と重なり、ちくりと痛む胸を抑えながら俺はユッキーのあとに続いた。

mokuji
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