絆される

「京」


暫くして、ふと真面目の顔をしたマコちゃんに名前を呼ばれる。
「ん?」とマコちゃんの横顔を見詰めれば、マコちゃんは会った時と同じ苦しそうなかおをしていて。


「二週間、悪いが我慢してくれるか」

「にしゅーかん?」

「停学処分二週間だそうだ。これで退学にならないんだから、あそこの緩さも大概だな」


自嘲気味に笑うマコちゃんだけど、その笑みは引き攣っている。
本当は、マコちゃんは停学したくなかったかも知れない。そう思ったが、寧ろ処分受ける覚悟はないとは思えない。
マコちゃんの思案が別のところにあるとすぐにわかった。
だから、


「…うん、わかった」

「俺がいない間になにかあったら、千夏を頼れ。あいつはああだけど信用できるし、力になってくれるだろう」

「も〜、マコちゃんは心配し過ぎだよぉ」


せめて、マコちゃんが安心できるように俺は表情を崩した。
ヘラヘラと笑う俺。
マコちゃんの表情は相変わらずどこか硬いままで。


「わかってる。これが性格なんだ。勘弁してくれ」


その表情、声からは隠し切れないほどの焦燥感を感じた。
どうすれば、マコちゃんがリラックスしてくれるのだろうか。
怖い顔のマコちゃんは、見てて少しだけ悲しくなる。
だから、その緊張が解れるようにと俺はマコちゃんの固く握った拳に掌を重ねた。


「わかってる」


だから、そんなに一人で考え込まないで。
俺のことは、心配しなくていいから。

言葉にする代わりに、俺は硬くマコちゃんの手をぎゅうっと握り締める。
流れ込んでくる体温。
マコちゃんにも、同じように俺の熱が流れ込んだら、と考えたら顔が熱くなって。
それでも、マコちゃんから目を離したくなかった。


「京」

「ありがとう、マコちゃん。ごめんね」


たかが二週間、されど二週間。
マコちゃんと一分一秒でも長くいたい。
それが叶わなくとも、せめて、瞼の裏に焼き付けておきたかった。
いつでも思い出せるように、マコちゃんの顔を、存在を。
マコちゃんはやっぱり悲しそうな顔をしていた。
それでも、マコちゃんも必死にそれを隠そうとしているのだろう。


「日桷和真も処分を受けるだろうから、少しは楽に過ごすことが出来るだろう」

「そんなの、マコちゃんがいなかったら意味ないよ」

「……」

「また、連絡するよ。いっぱい。朝も昼も夜もうぜーくらいメールするから。あと、電話も。そんで、マコちゃんちにも遊びに行くからね!…あ、俺、マコちゃんちいったことねえや」


マコちゃんを忘れたくないように、俺もマコちゃんに忘れられたくない。
だから、寂しくならないよう、忘れられないよう、とにかく必死だった。
半ば強引に取り付ける俺に、マコちゃんは嫌な顔をするわけではなく寧ろ、安堵したように頬の筋肉を緩ませる。


「わかった。掃除しとくよ」


それは、ようやくマコちゃんが見せてくれた隙だった。
話している間も抜け切れていなかった殺気が消え、いつものマコちゃんに戻った。
それが嬉しくて、釣られるように力を抜いた俺は「うん」と笑い返す。
そこで、今まで自分が緊張していたことを知った。

mokuji
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