忠告か警告か宣戦布告か (???視点) 都内にある病院のラウンジにて。 診察と治療を終えた敦賀真言はソファーに腰を下ろし、売店で買った炭酸飲料に口をつける。 警察からの事情聴取はすぐに終わった。 元々敦賀たちの学校で警察沙汰は珍しいことではない。 警察からしてもいくら注意しても問題ばかり起こす学生の相手をする暇はないのだろう。 自分まで問題児として扱われることはあまり気持ちのいいものではなかったが、まあ、どうでもいい。 「……」 口内で弾ける飲料を一気に喉奥へと流し込み、浅く息を付けば、日桷和真にやられた口の中の傷が痛む。 いくら痛くても、好きなものはやめられない。 「こりゃまた、ひっでぇな」 ふと、廊下の奥から人の気配が近付いてきて、聞き覚えのあるその高慢な声に僅かに眉を寄せる。 声のする方へ視線を向けるが、眼鏡が壊れてしまい裸眼になった今、景色がぼやけた。 それでも、目立つ赤い髪と長身でそこにいるのが誰かはすぐにわかった。 問題児たちの頂点に立つ問題児代表、生徒会長・玉城由良。 今の敦賀にとってあまり会いたくない相手だった。 「せっかくの男前が台無しじゃねえの?」 「……なんの用だ」 「風紀委員長とあろう方が転校生と戯れてるって聞いてな」 喉の奥でやつは笑う。 目の前までやってくる気配がしたが、敦賀は動かなかった。 「その様子からするに、イーブンってところか?あの日桷相手によくやれんな。…まあ、昔のお前なら無傷だったんだろうけどな。久し振りの殴り合いは楽しかったか?」 「世間話なら他所でしてもらいたいのだが」 「おっと、そう怒るなよ。…これだから短気はめんどくせぇんだよな」 そう言って、玉城は敦賀の隣に腰を下ろす。 軋むソファー。 距離こそはあるが、あまり気分がいいものではない。 怪訝そうに眉を顰める敦賀に気付いているのか気付いていないのか、玉城は「二週間」と呟いた。 「さっき、おっさん達が話し合ってそう決まった。多分、お前もあとから聞くだろう」 「……」 「まあ、ここまで暴れたんだから覚悟していたんだろ?残念だったな、あいつの息の根を止めることが出来なくて」 皮肉な物言いに頭に血が登り、玉城に掴みかかりそうになったのを寸でのところで堪えた。 やつは自分の反応を見て楽しんでいるのだ。 喜ばせるような真似は一切したくない。 しかし、こう物事を大きくしてしまった今、もう遅いのだろうが。 「しかし、てめえでも敵わないとなると、どうしたもんかな」 「……」 「そんなに睨むんじゃねえよ。残念だが、こいつは決まりだからな。まあ、問題ばっか起こしてた日桷に比べたら委員長様の処分は軽いもんだろ。たかが二週間、なあ?」 玉城由良はいつもに増してよく喋った。 口調から上機嫌なのが伺える。 こんな安い挑発に乗ってられるか。 口の中で舌打ちをした敦賀は、なにも応えない。 敦賀が無言を貫いても、玉城は喋るのをやめなかった。 「なにか必要なものがあるなら言え。荷物はうちの連中に運ばせる。その後は、自宅謹慎だ。家に帰るのは久しぶりなんだろ?帰省と思ってゆっくりしとけよ」 「……」 「ああ、暫くお別れになるんだからあの恋人さんとはよーくお別れの挨拶しとけよ」 不意に、出てきた『恋人』という単語に敦賀はぴくりと反応し、そして、睨むように玉城に鋭い視線を向ける。 そんな敦賀に怯むわけでもなく、楽しそうに口元を歪めた玉城は更に目を細めた。 「人間、寂しくなると後先考えなくなるからな」 |