後の祭り

校舎内、指導室前。
純から話を聞いた俺はすぐさま現場である指導室までやってきていた。


「マコちゃんっ!」


廊下の外まで飛び出したテーブル。
椅子を投げつけたのだろう。
窓ガラスは割れ、その付近に落ちた椅子は変な方向に曲がり、足には赤い液体が付着している。

すでに警察は帰ったようだ。
荒んだ指導室内には人気はなく、数人の風紀委員が後片付けに追われていた。


「残念ですが、一足遅かったようですね」 


一歩、指導室内へ足を踏み入れたとき。
背後から声がする。
聞き慣れたその柔らかい声の主を振り返れば、主、もとい石動千春は「どうも」と微笑んだ。


「ちーちゃん、マコちゃんは…」

「先ほど、病院へ連れて行かれました」

「病院っ?!」

「あの怪我なら入院までは行かないだろうが、暫く戻ってくるのは無理だな」


ちーちゃんの代わりに答えたのは、風紀副委員長、石動千夏だった。
ちーちゃんと千夏の双子が並んでいるのをみたのは初めてかもしれないが、今はそんなことにレア感を覚えている場合ではない。


「なにが、あったの」

「おや、なにも知らずに血相変えて来たんですか。可愛らしい方ですね」

「別に、知ってるけど。…純に聞いただけだから」


茶化されてるみたいで面白くなくて、冷ややかにちーちゃんに視線を送ればちーちゃんは肩を竦めた。
そして、すぐに気を取り直す。


「簡潔に述べれば、風紀委員長である敦賀さんが転校生に暴力を振るったというところでしょうか」

「真言も真言だけど、あの転校生も相当だな。真言相手にまじでやり合うなんて」

「あの怪我では、暫く戻ってこれないでしょうね」

「どうだかな。首の傷ももう塞がってたんだ。肋の一本や二本、二週間で治すだろ、あの化物なら」


正直、純から聞いた話もまだ半信半疑だった。
だって、マコちゃんが暴力を振るうような人間ではないと思っていた。
思っていたし、マコちゃんが暴力を嫌っていることを知っていた。
二人の会話に出てくるマコちゃんが俺の知ってるマコちゃんと結び付かなくて、なにより、俺でも敵わなかったヒズミがそんな大怪我をする姿なんて想像出来なくて。



「……マコちゃんが」


日桷をやっつけた。
暴力が嫌いだと言ったマコちゃんが、暴力で。

まだどこか自分が夢を見ているようだった。
いい夢なのか悪い夢なのか、まだ、わからない。


「……」

「仙道?」

「マコちゃんは、どうなるの。ねえ」

「…ここまで騒ぎ大きくしちゃぁ、最低でも二週間だな、停学。復帰できても、真言を嫌ってる連中が騒ぐだろうし、今のままこの座でいれるかどうかわかんねえ」

「まあ、敦賀さんの場合素行に問題はなかったですし、そう大事になりませんよ。仙道がそう気に病む必要はありません」


「たかが二週間、あっという間ですからね」と、ちーちゃんはいつもと変わらない笑みを浮かべる。
その笑顔はどこか楽しそうで。


「そうだ、これ」


ふと、思い出したようにちーちゃんは制服のポケットからメモ用紙を取り出した。
それを差し出され、受け取れば、そう遠くはない病院の住所が記されていた。


「そこに、敦賀さんがいるはずです。そんなに気になるのでしたら直接聞いてみてはいかがですか?」

「…ん、ありがと」


それもそうだ。
思いながらメモを仕舞えば、「ありがとう、ですか」とちーちゃんは意味深な笑みを浮かべる。


「面白いこと言いますね、仙道は」

mokuji
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