憧れ (佐倉純視点) 仙道さん、大丈夫だろうか。 付き添いもガードも見張りもいらないと言われた今、手の出しようがないがやはり気になるものも気になる。 この前たまたま仙道さんを見かけたときはこっそりつけたが、仙道さんの傍には敦賀がいた。 仙道さんも仙道さんで風紀の野郎にべったりだし、心配は不要だろう。そう納得してしまう自分が一番むかつくのだけれど。 正直、仙道さんには敦賀みたいなしっかりしたやつが似合うと思う。 俺らに対してはやけに刺々しい野郎だけど、仙道さんにはなんだかんだ優しくしてるみたいたし。 でも、でも。 やっぱり、二人の仲良さそうな姿を思い出せば出すほど胸が酷く詰まる。 もう少し、俺も頭よくなって強くなって、仙道さんからも頼りにされるようになれば。 思うだけでは仕方ないとわかってるけど、どうしようもない自分が歯痒い。 成績なんて興味すらないが、こういうとき、頭が悪い自分が嫌になる。 校舎内、踊り場。 階段に座り込み、わいわいと騒ぐチームのやつらを横目に、携帯を片手に仙道さんに連絡しようか迷っていると、なにやら風紀の腕章をつけた生徒たちが廊下をバタバタと駆け回っていく。 「おーい、廊下は静かに歩けよなぁ!」 「はははっ!言ってやんなって!忙しいんだろ、鬼ごっこで」 慌てた様子で走っていく風紀委員たちに連中は笑いながら茶化す。 確かに、いつもなら馬鹿みたいに足並み揃えて真面目に歩く連中だ。腕章をつけたまま走るのは珍しい。 なんとなく気になって携帯を仕舞う。 廊下へと出れば、丁度向こう側から見覚えのある金髪がいた。 右腕には風紀の腕章。 風紀副委員長の石動千夏は青い顔して俺の横を走り抜けようとした。 そして、咄嗟にその腕を引っ張り、強引に足を止めさせる。 「っなんだよ、てめえに構ってる暇は……っ!」 「なにかあったの?」 無理矢理振り払おうとしてくるのを構わず、強く腕を握り返せば石動千夏は面倒臭そうに舌打ちをする。 「お前の飼い主のせいで、うちの委員長がとうとうやらかしたんだよ!」 「委員長って、敦賀真言か?」 「くそっ、あれだけ日桷のことを言うなっつったのにッ!」 苛立たしげに床を踏む石動千夏には俺の言葉は届いていないらしい。 じゃあ、飼い主って、まさか、仙道さんのことか? その意味に気付き、ドクンと脈が乱れる。 「もういいだろ、離せよ!」 石動千夏は乱暴に俺の腕を振り払えば、慌ただしくその場を走り去る。 その背中が向かう方には、確か、風紀がよく利用する指導室があったはずだ。 「……」 ヒズミと敦賀真言が、仙道さんのせいで? 詳細はわからなかった。 わからなかったけど、ただならぬ嫌な予感がして。 細かいことを考えるよりも先に体が動いた。 携帯電話を取り出し、仙道さんの番号を呼び出す。 そして、携帯電話片手に俺はまた一人とどこかへ向かう風紀について走り出した。 冷たい汗が背筋を伝う。 仙道さんは電話に出ない。 |