瀕死状態に追い討ちは基本です

「なかなか顔出さないから嫌な予感はしていたが、なんだこの期待の裏切らなさは！大体貴様らにはTPOというものがわからないのか！」

「うわぁ、一番言われたくない人から言われちゃったね。どんまい二人とも」

「茶化すな紀平！貴様も貴様だ！寝るなら帰れ！！」

「だからぁ、こうやって起きたんだからいいじゃないんですか？ね、店長。ほらカリカリしない」

「ふざけるな！泥酔した素人にいきなり二輪しかけて失神させるなんて言語道断！やるならまずは時間をかけて拡張してそしてよく濡らして挿入しろ！貴様らがいつも棚に並べているプラグはなんのためのものだ！！」

「……す、すみません」

「せーん」

「四川貴様ふざけているのか？なあ？ふざけているんだろ？いいだろう貴様には一から教育し直さなければならないらしいな」


頭上でバタバタと足音が響き、すぐ側から聞こえてくる喧騒に脳味噌を揺さぶられ、あまりの不快感に唸りながらゆっくりと瞼を持ち上げればその場にいた全員の目がこちらを向いた。
見慣れない天井。
ここはどこだろうか、と考えたところで俺は店長たちに半ば強引に居酒屋に連行されたことを思い出す。
それで酒飲んで……えーと、なんだっけ。おかしいな、思い出せない。


「原田、やっと目を覚ましたか！」


一番に反応したのは店長だった。
安堵の色を浮かべる店長に、そこで俺は自分が『またやってしまった』ことに気付く。


「店長、もしかして俺また飛んでました…？」

「ああ、こいつらのせいでな」


そう言って店長は背後で正座する笹山と両手足を拘束され強制正座をさせられていた四川を指した。
しょんぼりと項垂れる笹山に、つまらなさそうな四川。


「…二人がどうしたんですか？」

「なんだ原田お前まさか酔ったときの記憶がないのか？」


呆れたような顔をする店長に不安を覚えながらも恐る恐る頷く。

昔からなのだ。
酒に酔うと記憶が飛ぶ。
俺が酔っぱらったとき一緒にいたやつらは皆してなにがあったか口を閉じていたが、酷いときは目が覚めたら警察署や病院にいたなんてこともあった。
警察が言うには酔って暴れて通りがかかりのチンピラに喧嘩ふっかけたらしい。
全く記憶になかった。
だから翔太には酒禁をするよう言われていたのだが今日はついハメをはずしてしまった。
だからこそ、怖かった。
まさかまた自分がなにかやらかしてしまったのではないだろうかと。

しかし、寧ろ店長や周りのやつらは俺を哀れむような目で見てくる。


「これは質が悪いな」

「まさか、俺なんかしたんですか」

「いや、寧ろお前が…」


そう店長が言いかけた矢先だった。
咄嗟に店長の口を塞いだ紀平さんはそのままにこりと笑う。


「そだね、べろんべろんになっちゃってたみたいでさ、あっちこっちぶつかってたようだから体痛くなってるかもしれないけど一応目立つところはこっちで応急処置しといたから多分大丈夫だと思うけど」

「応急処置？……ってあいたたたた」


つられるように自分の体に手を当てた俺はずくんと激しく疼く腰の痛みに悲鳴を上げた。
ずきずきと痺れたような下腹部の違和感。
ただ事じゃないと思ったが、これ以上自分の失態を追求する気にもなれなくて。
「迷惑かけてすみません」と謝れば、紀平さんは「俺はなんもしてないよ」と小さく笑う。
そしてゆっくりと目を開き、俺を見据えた。


「それよりかなたん、罰ゲームがまだだったね」