理性の消失という致命的バグ 「お前正気かよ、馬鹿だろ。つかなんで足だよ、馬鹿だろ」 「うるせえな、俺は紀平さんと話してんだよ」 口煩く詰ってくる四川にそう睨み返せば、手前のテーブルに水が注がれたグラスが乗せられる。 顔を上げれば、心配そうな顔をした笹山と目があった。 「原田さん、取り敢えず水飲んで頭冷やしてください」 「俺はこれでいい」 言いながらジョッキに入ったビールを掲げれば笹山は「原田さん」と弱ったように眉を下げた。 そんな俺たちのやり取りを眺めながらなにか考えていたらしい紀平さんだったが、やがて「いいよ」と口を開く。 「俺が負けたら土下座して足舐めればいいんだよね?」 確認するような口調になんだか義務的なものを感じながらもこくんと頷けば、紀平さんは怪しく笑う。 「じゃあかなたんが負けたら俺になにしてくれるの?」 挑発的な、どこか含んだような視線。 いつも人良さそうな顔してヘラヘラしてるくせに時おり見せるその見透かしたような目は底がなく。 いつもなら震え上がっているかもしれないが、今は違った。 全身に回ったアルコールが思考回路諸々を鈍くさせ、なんだか無敵にでもなったような気分で。 「負けませんから」 そうはっきりと告げれば、紀平さんは「へえ、強気だね」と微笑んだ。 「いいよ、面白そうだし罰ゲームはもし万が一かなたんが負けたとき考えようか」 優しい口調。 なんとなく馬鹿にされているみたいで顔をしかめれば、側にいた店長が俺の代わりに紀平さんを睨み付けた。 「紀平、乗るやつがあるか」 「いいじゃないっすか、かなたんがやりたいって言ってるんだから。せっかくの歓迎会なんだから無礼講で」 「お前が酒飲んでいい思い出になったことは残念ながらこれっぽっちも一ミリもないぞ。俺は忘れないぞ」 そう恨めしげにしながらも仲裁に入る店長に構わず、紀平さんは「透、生二つ」と笹山に声をかければ笹山は「わかりました」と頷いた。 「笹山、お前」 「二人ともやる気なんですから好きなようにさせましょう。俺も、ちょっと興味ありますしね」 呆れたように整った顔を歪める店長は「誰が酒代払うと思ってるんだお前らは」と悲痛な声を漏らした。 物珍しそうに、ある者はにやにやと笑いながら室内にいた従業員たちの目が向けられる。 ざわめき立つ個室内。 俺の頭は未だ覚めない。 |